旅愁 りょしゅう 歌詞の意味

恋しやふるさと なつかし父母 夢路にたどるは さとの家路

「ふけゆく秋の夜 旅の空の」が歌い出しの『旅愁(りょしゅう)』は、犬童球渓(いんどう きゅうけい/1879- 1943)作詞による明治時代の唱歌

1907年(明治40年)に出版された音楽教科書「中等教育唱歌集」に掲載された。

秋の夕暮れ

写真:秋の夕暮れ(出典:ブログ「庭先の四季」)

原曲は、オードウェイ(Ordway, John P./1824-1880)作曲『Dreaming of home and mother』(意味:故郷と母を夢見て)。1868年にアメリカで出版された歌曲。

オードウェイは、アメリカ民謡の父フォスターと同時期のアメリカのソングライター。クリスティー・ミンストレルズにもいくつか楽曲を提供した。

ちなみに、『旅愁』が掲載された唱歌集には、犬童球渓がアメリカ歌曲(ヘイス作曲)のメロディを用いた『故郷の廃家(幾年ふるさと 来てみれば)』も掲載されている。

【YouTube】旅愁 由紀さおり・安田祥子

【YouTube】旅愁 クラウン少女合唱団

歌詞(作詞:犬童球渓)

ふけゆく秋の夜 旅の空の
わびしき思いに ひとり悩む
恋しやふるさと なつかし父母
夢路にたどるは さとの家路
ふけゆく秋の夜 旅の空の
わびしき思いに ひとり悩む

窓うつ嵐に 夢もやぶれ
はるけきかなたに 心まよう
恋しやふるさと なつかし父母
思いに浮かぶは 杜(もり)のこずえ
窓うつ嵐に 夢もやぶれ
はるけきかなたに 心まよう

歌詞の意味

「わびしき」は、孤独で寂しく、つらくて心細い状態。

「はるけき」は、時間的・空間的にはるか遠く離れている状態。「遥けし」の活用形。

「杜(もり)」は一般的に「森」を意味するが、特に屋敷や敷地の周囲などに設置された人工林を指すことも多い。この歌詞においては後者の意味合いと思われる。

「こずえ」とは、木の幹や枝の先、木の先端を意味する。

作詞者の挫折が反映?

『旅愁(りょしゅう)』作詞者の犬童球渓は、熊本県人吉市出身の教育者・詩人。

「球渓」はペンネームで、生まれ故郷の球磨川渓谷に由来する。

犬童球渓の故郷・熊本県の球磨川

東京音楽学校を卒業後、兵庫県の柏原中学に音楽教師として赴任するが、現地の西洋音楽排斥運動に巻き込まれ、一年足らずで新潟の女学校へ転任することとなった。

この音楽教師としての挫折が、歌詞の「夢もやぶれ はるけきかなたに 心まよう」に反映されているように感じられる。

写真:犬童球渓の故郷・熊本県の球磨川(出典:Wikipedia)

明治時代の唱歌の歴史

『旅愁(りょしゅう)』が出版された1907年(明治40年)は、欧米の民謡や歌曲のメロディを用いた「翻訳唱歌」の流れが色濃く残っていた時代。

その頃にはすでに瀧廉太郎(たき れんたろう)が日本独自の優れた歌曲を発表しているが、唱歌の大きな流れとしては、外国曲のメロディをベースとした和洋折衷の作品が大勢を占めていた。

日本独自の唱歌が発表されるのは、『旅愁(りょしゅう)』から4年後に出版された「尋常小学唱歌」以降のことになる。

唱歌の歴史については、こちらの「唱歌の歴史 明治・大正・昭和」を適宜参照されたい。

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