埴生の宿 Home, Sweet Home

映画『ビルマの竪琴』での感動シーンでも有名に

日本では『埴生の宿(はにゅうのやど)』として知られる『Home, Sweet Home(ホーム、スイート・ホーム)』は、1823年初演のオペラ「ミラノの乙女(Clari, Maid of Milan)」の中で歌われた歌曲。

作曲は、イングランドの作曲家ヘンリー・ビショップ(Henry Rowley Bishop/1786-1855)。作詞は、アメリカのジョン・ハワード・ペイン(John Howard Payne/1791-1852)。

日本では明治時代の「唱歌」

日本では、中学校向けの音楽教材として、1889年(明治22年)に『中等唱歌集』に掲載された。訳詞は、『庭の千草(夏の最後のバラ)』、『才女(アニーローリー)』などの訳詩を手がけた里見 義(さとみ ただし/1824-1886)。

明治時代に作詞された歌詞なので、若干分かりにくい表現が使われている。日本語歌詞とその意味については後述する。

【試聴】埴生の宿 Home, Sweet Home

歌詞・日本語訳(意訳)

'Mid pleasures and palaces,
Tho' we may roam;
Be it ever so humble,
There's no place like home;

宮殿での享楽もあろうが
粗末なれど 我が家にまさる所なし

A charm from the skies
Seems to follow us there,
Which, seek through the world
Is ne'er met with elsewhere.

そこでは天からの魅惑漂う
世界中探せど他に変わる所なし

Home! Home! Sweet home!
There's no place like home!
Oh! there is no place like home!

愛すべき我が家よ 我が家が一番
我が家にまさる所なし

日本の唱歌『埴生の宿』作詞:里見義

埴生の宿も わが宿
玉のよそい うらやまじ
のどかなりや 春のそら
花はあるじ 鳥は友
おお わが宿よ たのしとも たのもしや

ふみよむ窓も わが窓
瑠璃の床も うらやまじ
きよらなりや 秋の夜半(よわ)
月はあるじ むしは友
おお わが窓よ
たのしとも たのもしや

日本語歌詞の意味

「埴生(はにゅう)」とは、「粘土性の土の雅語的表現」で、「埴生の宿」とは「土で塗った、みすぼらしい家」のこと。

「玉のよそい」、「瑠璃(るり)の床」とは、宝玉をちりばめたような立派な豪邸のこと。そんな豪邸など「うらやまじ(うらやましくない)」と述べている。

「ふみよむ窓」は、日本の唱歌『蛍の光』の歌詞にもあるように、窓のそばで蛍の光や月明かりで本を読むような貧しい生活を象徴している。

「たのしとも たのもしや」の意味

「たのしとも たのもしや」の意味が不明確だが、この点について金田一春彦氏は次のように解説している。

「たのし」はよいとして、「たのもし」は不調和な形容詞であるが、古語では、「たのし」にも「たのもし」にも「富んでいる」という意味がある。里見はこのことを知っていて、「心は富めり」という心境を表わすためにこの単語を使ったのであろうか。

<金田一春彦 安西愛子編「日本の唱歌〔上〕明治篇」(講談社文庫)より>

映画『ビルマの竪琴』での感動的シーン

映画『ビルマの竪琴』では、この『埴生の宿』が感動的なシーンの演出に一役買っている。

タイの国境付近の村で、日本の小部隊が何千というイギリス軍に囲まれてしまう。その時、日本兵が『埴生の宿』を日本語で歌うと、それを聴いたイギリス兵が英語で合唱した。

一つの歌で心を通い合わせた両軍は、戦闘を止めた。「歌は国境を越える」。そんな言葉の意味を実感させてくれる名シーンだ。

関連ページ

庭の千草 原曲:アイルランド民謡
『埴生の宿(はにゅうのやど)』と同じ里見 義による訳詞作品