奴さん(やっこさん) 歌詞の意味

奴さんだよ どちらゆく 旦那を迎えに お供は辛いね

『奴さん(やっこさん)』は、江戸時代後期から明治時代にかけて流行した江戸端唄。現代では東京の花柳界におけるお座敷の定番曲であり、江戸芸かっぽれ踊りの曲として伝えられている。

大岡越前祭の奴振り

古い俗謡ということで、『奴さん』の歌詞には分かりにくい単語がいくつか用いられている。この歌詞の意味について簡単に解説する。

合わせて、冷奴(ひややっこ)や奴凧(やっこだこ)など、「奴(やっこ)」に由来する語句についても簡単にまとめてみたい。

画像:大岡越前祭の奴振り(出典:えのしま・ふじさわポータル「えのぽ」)

【試聴】『奴さん』唄:市丸

【試聴】日本舞踊『奴さん』 振り付け・踊り方

歌詞の一例

奴さんだよ エー奴さん どちらゆく
ハアー したこりや 旦那を迎えに
さても寒いのに 供揃(ともぞろえ)
雪の降る夜も 風の夜も
さて お供は辛いね
いつも奴さんは 高ばしょり(高端折)
アリヤサ コリヤサ それもそうかいな

姉さんだよ エー姉さんは ほんかいな
ハアー したこりや
後朝(きぬぎぬ)の言葉も交わさず
明日の夜は 裏の背戸には
わしひとり サテ 合図はよいか
首尾をようして 逢いに来たわいな

奴(やっこ)は武家の奉公人

曲名や歌詞に登場する「奴(やっこ)」とは、江戸時代における武家の奉公人・下僕のこと。

武士が出かける時の荷物持ちなど雑務をこなし、旗本や御家人のお供をする様子は「供揃(ともぞろえ)」と呼ばれた。

大名行列での奴(やっこ)による供揃(ともぞろえ)の様子は「奴振り(やっこふり・やっこぶり)」として芸能にまで高まり、歌舞伎舞踊の「奴踊(やっこおどり)」にも受け継がれている。

ちなみに、供揃(ともぞろえ)は武家に限らず、神主や神官、寺院の導師・僧侶などの先払いとしても役割を果たしていた。現代でも、各地の神社で「奴振り」が祭礼行事に取り入れられている。

着物は高端折

歌詞に登場する「高ばしょり(高端折)」とは、着物のすそをたくし上げて帯(腰ひも)に挟んで止める着付けのこと(と思われる)。高い位置まで端折る(はしょる)意味から「高端折」なのだろう。

足が隠れるほどの長い着物は動きにくい。そこで、お尻の上の腰ひもまでたくし上げて帯の中へ差し込んで止めておく。「尻端折/尻っぱしょり」とも呼ばれる。

写真は尻端折の一例(出典:suggie@フォト蔵)

ちなみに、女性の着物も帯の部分までたくし上げることを「お端折(おはしょり)」と呼ぶ。

「姉さんだよ」の歌詞について

江戸端唄『奴さん』には様々な替え歌があったようだが、「姉さんだよ」の歌詞もこうした替え歌の中の一つ。一番の歌詞との内容的なつながりはない。

「姉さんだよ」の歌詞に登場する「後朝(きぬぎぬ)」とは、三省堂「大辞林」では次のように説明されている。

① 男女が互いに衣を重ねて共寝した翌朝、別れるときに身につける、それぞれの衣服。

② 相会った男女が一夜をともにした翌朝。また、その朝の別れ。

③ 夫婦の離別

<引用:三省堂「大辞林」>

「首尾をようして」とは、「首尾よくして」、つまり物事がうまいぐあいに都合よく運ぶ様を意味している。

冷奴 ひややっこ

奴(やっこ)が着ていた半纏(はんてん)の模様は、「釘抜紋(くぎぬきもん)」と呼ばれる四角形がよく用いられていた。

「クギを抜く」が数多くの城を破る「九城をぬく」につながるとして、 武家にとって縁起の良い尚武の家紋として広まっていた。

釘抜紋(くぎぬきもん)の四角形のように、食材を大きめの立方体に切ることは「奴に切る」と表現される。冷奴(ひややっこ)の名は、冷した豆腐を奴に切ることに由来している。

奴凧 やっこだこ

正月などに凧揚げで見かける「奴凧(やっこだこ)」は、武家の奉公人である奴(やっこ)が着ていた半纏(はんてん)の両袖を広げたデザインとなっている。

その袖には四角い「釘抜紋(くぎぬきもん)」が描かれている(写真の出典:凧職人のお店 お江戸の凧屋さん)。

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