ごんしゃん GONSHAN 意味・語源

北原白秋の詩集『思ひ出』で多用された柳河地域の方言

ごんしゃん(GONSHAN)とは、北原白秋の故郷・福岡県柳河(現:柳川市)における方言で、「良家のお嬢さん(令嬢/娘)」を意味している。

北原白秋が幼少期・少年期の記憶を綴った詩集『思ひ出』では、序文や複数の詩の中で「GONSHAN」が用いられている。

福岡県柳河(現:柳川市)

写真:福岡県柳河(現:柳川市/出典:ブログ「YellowRock」)

詩集『思ひ出』の中でも、『曼珠沙華(ひがんばな)』では「GONSHAN」が最も印象的に繰り返し用いられている。

その詩に山田耕筰が作曲したことで、「GONSHAN」を歌曲の歌詞として耳にする機会も少なくない。

このページでは、ごんしゃん(GONSHAN)の語源について諸説をまとめるとともに、北原白秋の詩集『思ひ出』において「GONSHAN」が用いられている個所を引用して解説してみたい。

語源は?

ごんしゃん(GONSHAN)の語源・由来については諸説あるが、まず「ごん」については、姉御(あねご)・娘御(むすめご)など女性への敬称「御(ご)」が変化したとの説が有力なようだ。

この「ごん」にさらに敬称の「さん」または「様(さま)」が語尾について「ごんさん」となり、そこから変化して「ごんしゃん」となったとのこと。

柳河地域には「おんご」という方言もあり、これは上述の「ご」の前にさらに尊敬語の「お」がついた「おご」が長音化したもの。

「おんご」と「ごんしゃん」の使い分けについては、一般的に、前者の方が少女・幼女に使われるという。

狂言の「おごう」

日本の古典芸能・狂言(きょうげん)の中にも、ごんしゃん(GONSHAN)の語源・由来と関連性が認められる用語が存在する。

狂言では、主人・太郎冠者・次郎冠者など、登場人物が名前ではなく役柄で呼ばれるが、その数ある登場人物の中に「おごう」という役柄がある。

「おごう」の役割は「良家の娘/若妻」であり、ごんしゃんが意味する人物像と一致している。

主人に「様」がつくように、「おごう」にも「様」がつくのであれば「おごうさま」となり、「ごんしゃん」へ音変化することも十分に考えられる。

北原白秋『思ひ出』とGONSHAN

北原白秋の詩集『思ひ出』によって、現代でも全国的に知られるようになった「ごんしゃん(GONSHAN)」は、実際に作品中でどのように用いられているのだろうか?

まず、詩集の序文にあたる「わが生ひたち」から、該当部分を次のとおり引用する。

美くしい小さな Gonshan.忘れもせぬ七歳(ななつ)の日の水祭(みづまつり)に初めてその兒(こ)を見てからといふものは私の羞耻(はにかみ)に滿ちた幼い心臟は紅玉(ルビイ)入の小さな時計でも懷中(ふところ)に匿(かく)してゐるやうに何時となく幽(かす)かに顫(ふる)へ初めた。

<引用:北原白秋 詩集『思ひ出』序文「わが生ひたち」より>

この記述は、北原白秋が七歳の頃の初恋の回想である。少年時代の北原白秋が子供たちと遊んでいた際に、小さく可愛い女の子「Gonshan」をちらっと見かけ、恋心を覚えたシーンのようだ。

曼殊沙華(ひがんばな)と「GONSHAN」

詩集『思ひ出』の中では何か所か「GONSHAN」が用いられているが、中でも最も有名なのが、山田耕筰が曲をつけた『曼珠沙華(ひがんばな)』だろう。

GONSHAN(ごんしゃん) GONSHAN 何処へゆく
赤い御墓の 曼珠沙華(ひがんばな) 曼珠沙華
今日も手折りに 来たわいな

<引用:北原白秋 詩集『思ひ出』より『曼珠沙華』冒頭>

この『曼珠沙華(ひがんばな)』における「GONSHAN」が具体的にどんな女性を指すのかについては諸説あり、その解釈の違いによって歌全体のストーリーに大きな変化が生じる重要なポイントとなっている。

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