マーティン・カーシーが伝えたスカボローフェア

ポール・サイモンとボブ・ディランに『スカボローフェア』を伝授

スカボローフェア』と言えばサイモン&ガーファンクルのアレンジが有名だが、そのルーツは、イギリスのフォーク・リバイバルにおける最も重要なアーティストの一人、マーティン・カーシー(Martin Carthy)とポール・サイモンとの出会いにある。

1964年に結成されたサイモン&ガーファンクルだったが、デビューアルバムは数千枚しか売れず、人気はいまひとつだった。

デビュー失敗に失望したポール・サイモンは、イギリスを始めとするヨーロッパへと、新たな活動の地と楽曲探しの旅に出発。そこでイギリスのマーティン・カーシーと出会いを果たした。

ジャケット写真:マーティン・カーシー ベスト盤

折りしも1964年のイギリスはフォークリバイバルブームの真っ只中。ポール・サイモンは、各地のフォーククラブで活躍していたマーティン・カーシーと交流し、マーティン・カーシーのアレンジした『スカボローフェア』に巡り合った。

マーティン・カーシー版『スカボローフェア』は、1965年にリリースされたファーストソロアルバム「Martin Carthy」に収録されている。

【YouTube】 Martin Carthy - Scarborough Fair

マーティン・カーシーによる『スカボローフェア』にほれ込んだポール・サイモンは、1,800ポンドで楽曲の使用権を取得。

独自の歌詞(詠唱)を追加し、1966年のアルバム『Parsley,Sage, Rosemary and Thyme(パセリ・セージ・ローズマリー・タイム)』に収録した。

サイモン&ガーファンクル版『スカボローフェア』は、1967年に公開されたダスティン・ホフマン主演の映画「卒業」挿入歌として用いられ、世界的な知名度を獲得した。

ボブ・ディランは先に出会っていた

実は、1960年代にマーティン・カーシーから『スカボローフェア』を教わっていたのはポール・サイモンだけではなかった。

風に吹かれて(Blowin' in the Wind)』で有名なアメリカの男性アーティスト、ボブ・ディラン(Bob Dylan)は1962年12月に渡英しており、時期的にはポール・サイモンよりも1年以上先にマーティン・カーシーとの出会いを果たしていたのだ。

帰国後の1963年5月にリリースされたボブ・ディラン2枚目のアルバム「Freewheelin' Bob Dylan」(ジャケット写真)の中には、マーティン・カーシーから伝授された『スカボローフェア』のアレンジである『Girl Of The North Country』(北国の少女)が収録されている。

比較検討のために、同曲の歌詞の一部を次のとおり引用し、簡単な和訳を併記しておく。

Well, if you're travelin'
in the north country fair,
Where the winds hit heavy
on the borderline,

Remember me
to one who lives there.
She once was
a true love of mine.

風が吹き荒れる
北国の市を旅するなら
そこに住んでいるあの人に
よろしく伝えてほしい
彼女は僕がかつて
本当に愛した人だった

ボブ・ディラン『Girl Of The North Country』(北国の少女)のメロディは、サイモン&ガーファンクル『スカボローフェア』とはかなり異なっているが、歌詞の内容は『スカボローフェア』と相通じるものがある。

ボブ・ディランもポール・サイモンも同じくマーティン・カーシーから曲を伝授されているのだから、歌詞の内容に類似性が見られるのは当然の事だ。

時系列に並べて整理

マーティン・カーシー『スカボローフェア』とポール・サイモン、ボブ・ディランに関する事柄を時系列にまとめると次のとおり。数年の間に貴重な出会いがなされている。

1962年

ボブ・ディランがイギリスに渡る(12月)

1963年

ボブ・ディラン2枚目のアルバムリリース。『スカボローフェア』と歌詞が似た『Girl Of The North Country(北国の少女)』収録。

1964年

ポール・サイモンがイギリスに渡る。

1965年

マーティン・カーシーが初のソロアルバムをリリース。スカボローフェアが収録されている。

1966年

サイモン&ガーファンクル版「スカボローフェア/詠唱」リリース

1967年

1967年のダスティン・ホフマン主演の映画「卒業」の挿入歌として、サイモン&ガーファンクルによる「スカボローフェア/詠唱」が用いられ、更に有名になる。

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