ドナドナの謎

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カツェネルソンは本当に作詞者なのか?

 次は、『アドルノ~非同一性の哲学』(細見和之著/講談社)における「ドナドナ」の記述について触れたいと思います。触れていくといっても、この本の内容は難しいですが非常に奥の深いものであり、実際にはこの本を手にとって欲しいところもありますので、要所要所を引用していきたいと思います。ちなみに「アドルノ」とは、フランクフルト学派の中心として音楽・社会学・美学など多彩な分野で活躍したドイツの社会哲学者です。

 筆者は、その友人がドイツから持ちかえったドイツのフォークグループのレコードを引用しています。それはイディッシュ語(東方ユダヤの言葉)でイディッシュ・リートを歌ったレコードで、ドイツ語の訳詞もつけられていたようです。ドナドナのタイトルは「仔牛」と題されていて4番ぐらいまであり、その内容は「安井かずえ」さんの訳にはないものが多く含まれていました。恐らくその内容が重すぎるという理由で訳されなかったのだと思いますが、その一部を引用させてもらうと次のとおりです。

哀れな仔牛を人は縛ることができる
そして連れてゆき屠殺(とさつ)することも
翼を持つものなら空高く飛んでゆく
そして誰の奴隷にもなりはしない

アウシュヴィッツ収容所/出典:Wikipedia

 いやぁこれはまた重い内容ですね。こんな歌詞を小学生に歌わせたらPTAがうるさくてかないませんね、きっと。このレコードに付されている解説によると、前のページの本と同様に作者はイツハク・カツェネルソンで彼は1886年生まれ。ポーランドのウッジのユダヤ人学校の教師を努めるとともに、多くの歌や戯曲を書き、ユダヤ人の闘争団体とも密接な関係にあったそうです。

 1942年に妻と二人の息子がアウシュビッツへ強制移住させられ、彼はその印象をこの歌に託し、その後カツェネルソン自身も強制移住させられ、妻子と同様に44年にアウシュビッツで死亡したとのことです。

 この点筆者はこの解説が幾分不正確であることと「ドナドナ」の作者をカツェネルソンと断定することには異説もあることを承知しているそうです。ただ、決定的に重要なのは、あの「ドナドナ」という馴染み深い歌が、まぎれもなくユダヤ人に対するポグロム(民族虐待)を歌ったユダヤ人の歌に他ならなく、そして、アドルノもまたユダヤ系の哲学者であるといった問題を遥かに超えて、この歌とわれわれの関係のうちには、きわめてアドルノ的なテーマがぐっと凝縮された形で存在している、ということらしいのです。さて、一体この「アドルノ的なテーマ」とは何なのでしょうか?答えはこの本の中にあります。

 哲学書の内容はともかくとして、とにかくこの「ドナドナ」という何でもないように思える歌の背景にはとてつもなく重いテーマが隠されていたことは間違いないようです。世界の民謡・童謡には、本当にいろいろな背景が潜んでいるようで、興味が尽きません。

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