『愛しのアランデールのバラ』は、1835年頃にブロードサイドバラッドとしてイギリスで広まった歌曲。「アラン(Allan)」というスコットランド中部の地名が題材として用いられている。
作曲はチャールズ・ジェフリーとする表記が多いが、古いスコットランド民謡をアレンジしたとの説も見られ、スコットランド民謡としても位置付けられている。
当時は4分の4拍子だったが、その後様々なアレンジが加えられ、現在ではワルツとして演奏されることが多いようだ。
歌詞の内容は、メアリーという女性をアランデールのバラにたとえ、彼女と過ごした蜜月の日々をしみじみと振り返る悲しいストーリー。
「アラン(ALLAN)」という地名は、現在では「ALLAN WATER」という川の名前に見ることができる。
「ALLAN WATER」は、フォース川(River Forth)の支流としてスコットランド中部のパース州とスターリングシャー区を流れる全長約35kmの川のこと。釣りの名所として、海外のフィッシング関連のサイトで「ALLAN WATER」の名前を見かけることがある。
スコットランド民謡の題材として用いられることも多く、「蛍の光」の原曲の作詞者として知られるロバート・バーンズも「ALLAN WATER」というスコットランド民謡の作詞を手がけていたようだ。
『愛しのアランデールのバラ』のワルツのメロディーを聞いていると、卒業シーズンの定番『仰げば尊し』のメロディーによく似ていることに気が付く。部分的に完全に一致する箇所もあり、全体的な曲調もとてもよく似ている。
『仰げば尊し』は、1884年(明治17年)3月29日に発刊された「小学唱歌集第三編」で初めて日本に広められた唱歌の一つ。
当時の日本政府は、アメリカのボストンで音楽教育の実績のあったメーソン(Mason, Luther Whiting/1828-1896)を日本に呼び寄せ、「小学唱歌集」に掲載するために『蛍の光』や『アニーローリー』などの西洋の音楽の指導を受けていた。
『仰げば尊し』も、このメーソンが日本政府に紹介した海外の音楽の一つである可能性が考えられる(メーソン来日は1880年)。
アメリカ国会図書館が公開している資料によれば、1857年にボストンのOliver Ditson出版社がこの曲を含んだ歌集を出版しているのが確認できる。ボストンの音楽教育に大きく関わっていたメーソンが、日本を訪れた時点(1880年)でこの『愛しのアランデールのバラ』を知っていた可能性は大きいと言える。
ただ、『仰げば尊し』と『愛しのアランデールのバラ』のメロディーは、良く似ているともいえるし、あまり似ていないとも言える。もし、メーソンが『愛しのアランデールのバラ』も日本政府に紹介していたとしたら、なぜスコットランド民謡「蛍の光」のように、歌詞の内容もメロディーもそっくりそのまま日本の民謡として輸入しなかったのだろうか?
思うに、『蛍の光』等のように自由に扱える古い民謡とは異なり、『愛しのアランデールのバラ』は、メーソンが活躍していた頃にはまだ「民謡」と呼ぶには早かったと考えられる。
このため、出版社や編曲者等の権利に配慮するために、そのまま日本政府に紹介するのではなく、日本向けにメーソンが独自のアレンジを加えたことが考えられる(編曲も法的にはグレーだが)。
いずれにしても、『仰げば尊し』の原曲について公的な記録が残っていないため、これらの仮説は想像の域を出ない。ただ、もし『愛しのアランデールのバラ』が何らかの形で『仰げば尊し』の誕生に関わっていたとしたら、日本の音楽教育史の観点からも非常に興味深い話だ。
<追記>『仰げば尊し』の歌詞「いざこそ別れめいざさらば」のメロディーは、賛美歌「THERE IS A GREEN HILL FAR AWAY」の最後の部分にもよく似ている。牧師を目指していたメーソンがこの曲を知っていた可能性は小さくないだろう。
「Sweet Rose of Allandale(愛しのアランデールのバラ)」
作曲:チャールズ・ジェフリー(Charles Jefferys/1807-1865)
sequenced by Barry Taylor
仰げば尊し(あおげばとうとし)
文部省唱歌
賛美歌「THERE IS A GREEN HILL FAR AWAY」
作曲 George C. Steb-bins
(注)最後の部分が「仰げば尊し」に少し似ています。
注:オリジナルの歌詞とは若干異なる箇所があります。
The sky was clear, the morn was fair
Not a breath came over the sea
When Mary left her highland home
And wandered forth with me
空は澄み、晴れ渡る朝
海にはそよぐ風もない
メアリーが高地の家を去り
私と歩き回っていた頃には
Though flowers decked the mountainside
And fragrance filled the vale
By far the sweetest flower there
Was the rose of Allandale
花々は山腹を彩り、芳香を谷間中に満たしていた
中でも最も素敵なのは、アランデールのバラだった

Chorus
Sweet rose of Allandale
Sweet rose of Allandale
By far the sweetest flower there
Was the rose of Allandale
<コーラス>
愛しのアランデールのバラ
愛しのアランデールのバラ
最も素敵だった アランデールのバラよ
Where'er I wander to the east and to the west
And fate began to lower
A solace still was she to me
In sorrow's lonely hour
西へ東へさ迷い歩き
運命は下降し始めていた
悲しみの孤独の時に
私にとっての慰めは彼女だった
Though tempest wreck my lonely barque
And may rend the quivering sail
One maiden warm withstood the storm
'Twas the rose of Allandale
大嵐が私の帆船を難破させようとも
震える帆を引き裂こうとも
嵐に耐えた元気な花は
それはまさしくアランデールのバラだった
Chorus

And when my feeble lips were parched
On Africa's burning sands
She whispered hopes of happiness
And tales of foreign lands
アフリカの焼け付く砂漠に唇が焦げる中も
彼女は幸福の希望と異国の土地の話を囁いてくれた
My life had been a wilderness
Unblessed by fortune's gales
Had fate not linked my lot to her
Sweet rose of Allandale
私の人生は荒れ野原のようだった
幸運の疾風に恵まれることもなく
運命は私を彼女に引き合わせることはなかった
愛しのアランデールのバラよ
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