魔王 シューベルト

お父さん、魔王のささやきが聞こえないの? 魔王が僕を苦しめる!

『魔王(Erlkönig)』は、オーストリアの作曲家シューベルトにより1815年頃に作曲された歌曲

シューベルトがまだ10代の頃に完成された傑作で、1820年12月1日にウィーンの私的な集会で初めて演奏された。

歌詞は、ドイツの詩人ゲーテによる同名の詩『魔王』から採られたもの。1782年の歌劇『漁師の娘(Die Fischerin)』のために作詞された。

挿絵:ゲーテ「魔王」挿絵(作:モーリッツ・フォン・シュヴィント Moritz von Schwind/1804–1871)

【YouTube】シューベルト『魔王』 Der Erlkönig D.328 Op. 1

シューベルト:魔王 歌詞のあらすじは?

熱を出した息子を医者に連れて行くため、息子を腕に抱いて夜の闇を馬で駆け抜ける父親。

息子は高熱にうなされ、幻聴に襲われる。風に吹かれた枯れた葉や木々が、まるで魔王の囁きに聴こえるのだ。息子は結局途中で息絶えてしまう。

ゲーテの『魔王』のストーリーは、デンマークの伝承をベースにした『ハンノキの王の娘(Erlkönigs Tochter)』に基づくという。

「ハンノキ」とは、カバノキ科ハンノキ属の落葉高木。「ハンノキの王」は、樹木の精霊の王という超自然的な存在として描かれている。

4人の登場人物で歌い分け

『魔王』には、「語り手」、「父親」、「息子」、「魔王」の4人の人物が登場する。一人の歌手によって歌われるのが通常だが、4人の歌手によって別々に歌われることもある。シューベルトは4人をそれぞれ異なる音域に配置し、それぞれに固有のリズムを持たせている。

歌詞(ドイツ語)・日本語訳(意訳)

Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?
Es ist der Vater mit seinem Kind;
Er hat den Knaben wohl in dem Arm,
Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm.

<語り手>
夜の風をきり馬で駆け行くのは誰だ?
それは父親と子供
父親は子供を腕にかかえ
しっかりと抱いて温めている

"Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?"
"Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?
Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?"
"Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif."

息子よ、何を恐れて顔を隠す?
お父さんには魔王が見えないの?
王冠とシッポをもった魔王が

息子よ、あれはただの霧だよ

"Du liebes Kind, komm, geh mit mir!
Gar schöne Spiele spiel ich mit dir;
Manch bunte Blumen sind an dem Strand,
Meine Mutter hat manch gülden Gewand."

魔王:「可愛い坊や、私と一緒においで
楽しく遊ぼう
キレイな花も咲いて
黄金の衣装もたくさんある」

"Mein Vater, mein Vater, und hörst du nicht,
Was Erlenkönig mir leise verspricht?"
"Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind;
In dürren Blättern säuselt der Wind."

お父さん、お父さん!
魔王のささやきが聞こえないの?

落ち着くんだ坊や
枯葉が風で揺れているだけだよ

"Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?
Meine Töchter sollen dich warten schön;
Meine Töchter führen den nächtlichen Reihn
Und wiegen und tanzen und singen dich ein,
Sie wiegen und tanzen und singen dich ein."

魔王:「素敵な少年よ、私と一緒においで
私の娘が君の面倒を見よう
歌や踊りも披露させよう」

"Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht dort
Erlkönigs Töchter am düstern Ort?"
"Mein Sohn, mein Sohn, ich seh es genau,
Es scheinen die alten Weiden so grau."

お父さん、お父さん!
あれが見えないの?
暗がりにいる魔王の娘たちが

息子よ、確かに見えるよ
あれは灰色の古い柳だ

"Ich liebe dich, mich reizt deine schöne Gestalt,
Und bist du nicht willig, so brauch ich Gewalt."
"Mein Vater, mein Vater, jetzt faßt er mich an!
Erlkönig hat mir ein Leids getan!"

魔王:「お前が大好きだ。可愛いその姿が。
いやがるのなら、力ずくで連れて行くぞ」
お父さん、お父さん!
魔王が僕をつかんでくるよ!
魔王が僕を苦しめる!

Dem Vater grauset's, er reitet geschwind,
Er hält in dem Armen das ächzende Kind,
Erreicht den Hof mit Müh und Not;
In seinen Armen das Kind war tot.

<語り手>
父親は恐ろしくなり 馬を急がせた
苦しむ息子を腕に抱いて
疲労困憊で辿り着いた時には
腕の中の息子は息絶えていた

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