6ペンスの唄を歌おう
Sing a Song of Sixpence

黒ツグミと不思議なパイ料理 謎めく歌詞のマザーグース

『6ペンスの唄を歌おう』(Sing a Song of Sixpence/シング・ア・ソング・オブ・シックスペンス)は、遅くとも18世紀頃から伝わるイギリスの古い童謡・マザーグース(ナーサリーライム)。

「6ペンス Sixpence」とは、イングランドで1551年から1970年まで鋳造されていた通貨・コインのこと。ちなみに100ペンスで1ポンド(1971年以降)。

実在した通貨・コインが曲名になっているが、お金に関する歌というよりは、むしろ歌詞に登場する「blackbird(ブラックバード/黒ツグミ)」と異色のパイ料理が存在感を放っている。

クロウタドリ 黒ツグミ blackbird

写真:クロウタドリ(黒ツグミ/blackbird)出典:Wikipedia

「blackbird」は、スズメ目ツグミ科のクロウタドリのこと。オスは体が黒く、目の周りが黄色でくちばしも黄色い。

ヨーロッパでは春の訪れを告げる鳥として親しまれており、スウェーデンでは国鳥に指定されている。

【YouTube】6ペンスの歌を歌おう

歌詞の意味(和訳)

Sing a song of sixpence,
A pocket full of rye;
Four and twenty blackbirds,
Baked in a pie.

6ペンスの歌を歌おう
ポケットいっぱいのライ麦
パイにつめて焼きあげた
24羽の黒ツグミ

When the pie was opened,
The birds began to sing;
Was not that a dainty dish,
To set before the king ?

パイを開ければ
鳥が歌い出す
王様に出すごちそうさ

The king was in his counting-house,
Counting out his money;
The queen was in the parlour,
Eating bread and honey.

王様は蔵にこもって金勘定
女王は居間ではちみつとパン

The maid was in the garden,
Hanging out the clothes,
There came a little blackbird,
And snapped off her nose.

メイドはお庭で洗濯物を干す
そこへ黒ツグミがやって来て
鼻をパチンとついばんだ

歌の意味・内容は?

英語の歌詞をそのまま日本語に翻訳しても、そのままでは何を表現した歌なのか分からず謎が多い。その意味合いについては、ウィキペディアの解説によれば複数の解釈が存在する。

一つ目の説は、24羽の黒ツグミは24時間、王は太陽を、女王は月を表すとの解釈。これで時間の流れを表すというが、それ以外の部分の説明が無いのが残念。一貫した説明ができれば面白い解釈だ。

二つ目の説は、ラテン語の聖書を翻訳した英語訳聖書の出版を祝う内容との解釈。24羽の黒ツグミの「24」とは、12世紀頃まで使われた古英語の24文字のラテン・アルファベットを表し、パイを焼く行為は活版印刷を表すという。

ヘンリー8世説

三つ目の説は、ヘンリー8世と王妃キャサリン、アン・ブーリンを表すとの解釈。ヘンリー8世はローマ教皇と争いイングランド国教会を独立させると、教皇庁の支配下にあった数百の修道院を解体し、その財産を没収した。

この説では、パイで焼かれた黒ツグミが解体された修道院の修道士を表し、メイドがアン・ブーリンを指すことになるようだ。

私見では、メイドはヘンリー8世の側近中の側近であったトマス・クロムウェルと解釈した方がしっくりくるような気がするが、どうだろうか。

イングランド民謡『グリーン・スリーブス』もヘンリー8世を題材としており、可能性としてはこの「ヘンリー8世説」が最も信ぴょう性が高そうだ。

パイ料理の道具「パイ・バード」

パイと黒ツグミと言えば、イギリスでパイ料理の際に使われる「パイ・バード Pie Bird」という可愛い料理道具がある。下の写真で、パイの中央から顔を出している陶器製の黒い鳥がそれだ。

パイバード Pie Bird

パイ生地にも様々な形状があるが、表面がすべて覆われるタイプのパイの場合、焼く間に内側に蒸気が貯まってしまう。

そこで、このパイ・バードを中央に配置しておくことで、煙突のように蒸気がパイ・バードの口から外へ抜けていくという料理グッズになっている。

写真の出典:Chef Joe and Chef Brian's Cooking Blog

手品のようなパイ料理は実在した?!

『6ペンスの唄を歌おう』の歌詞では、パイにつめて焼きあげた24羽の黒ツグミが、パイを開けた途端に歌い出すという手品のような料理が描写されている。

英語版ウィキペディアの解説によれば、16世紀頃にこれと似たような料理(の演出)が実際に存在していたという。

その解説では、パイを焼く際に小鳥を生きたまま生地の内側に閉じ込めておき、表面が焼きあがったパイを切り開いたときに、中の生きた鳥が飛び出していくというサプライズ的な演出が行われていたようだ。

おそらくは見た目だけの具無しのパイで、後でちゃんとした中身入りのパイが提供されたであろうことは想像に難くない。

さすがに歌詞のように24羽も小鳥を入れておくことは出来ないだろうが、小鳥1羽だけならこういったきわどい仕掛けも現実味を帯びてくる。もちろん現代では動物愛護の観点から行われることはないだろう。

ビートルズとの関係も?

ウィキペディアの解説によれば、ビートルズの楽曲『クライ・ベイビー・クライ(Cry Baby Cry)』は、この『6ペンスの唄を歌おう』の歌詞を引用しているという。該当箇所を次のとおり引用する。

The king of Marigold was in the kitchen
Cooking breakfast for the queen
The queen was in the parlour
Playing piano for the children of the king

<引用:The Beatles - "Cry Baby Cry">

内容的にはまったく関連性がないので、引用というよりは、文章の構造を寄せたオマージュやパロディに近い表現になっている。

また、ビートルズの別の楽曲『Blackbird(ブラックバード)』は、『6ペンスの唄を歌おう』と同じくクロウタドリ(黒ツグミ)をモチーフとした作品として知られている。

アガサクリスティーとの関係

アガサ・クリスティ(Agatha Christie)が1953年に出版した推理小説「ポケットにライ麦を(A Pocket Full of Rye)」は、この『6ペンスの唄を歌おう』の歌詞を意識した作品となっている。

イギリスの童謡をモチーフとしたアガサ・クリスティの作品としては、『10人のインディアン』からヒントを得た『そして誰もいなくなった』が特に有名。

結婚のジンクス

イギリスの通貨「6ペンス」は、結婚式で花嫁が靴に入れておくと幸せになれるという古いジンクスがある。

これはいわゆる「サムシング・フォー(Something Four)」と呼ばれる言い伝えの一部。他にも「新しいもの」「古いもの」「借りたもの」「青いもの」を身に着けると幸せになれると伝えられている。

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