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底をつきかける食料~沖へ流されるグレイハウンド号

 沈没の危機を乗り越えたものの、「食料不足」という問題が彼らを更に苦しめました。船体の一部を破壊する程の強風と荒波により、家畜はすべて海に投げ出され、食料を入れた樽は砕けて中身が飛び散り、もはや食べられる状態ではなくなっていました。

 運良く残っていたのは塩漬けのタラと飲料水の樽。これらも少しずつ大切に摂らなければすぐになくなってしまう程の量でした。しかも節約しても岸に着くまで食料が持つという保障は全くなく、風で更に沖へ流されてしまったらもはやそれまでという状況だったのです。

 気が付くと船はアイルランドの西方沖をただよっていました。遥か遠くのかすみの中に陸らしきものが見えてきたものの、食料が尽きる前に港へ辿りつかんとする船員達の願いもむなしく沖へ沖へと吹き付ける風。なかなか港に近づけずに波間を漂っている間にも確実に減っていく食料。折角必死の努力で嵐の中を乗り越えたのに、自分達はこのまま船上で飢えてしまうのではないか。船員達は不安と空腹と必死に戦いながら、最後の気力を振り絞って、船を陸へ近づけようとできる限りの努力を続けました。

舞い降りる神の奇跡

 そんな彼らの願いが神に届いたのでしょうか。イングランド沖を2週間も風に流され、食料もまさに底をつきようとし、船員達もなかば諦めかけていたその時、突然風向きが変わり、彼らを陸の方へ導き始めたのです。穏やかな風は、壊れかけた船体を優しくいたわる様に船を港へと近づけていき、ついに彼らは嵐の日から約1ヶ月後の1748年4月8日、アイルランド北部のドニゴール州スウィリー湾(Lough Swilly/Donegal)にたどり着きました。

 着岸したとき船のキッチンでは鍋で最後の食料を調理していたところでした。更に驚くべきことに、彼らが2時間前にいた風の穏やかな海上は、彼らの船が陸の近くの安全な海域まで達するや否や、嵐のような天候に一変し、それはまるで神が彼らのために少しの間だけ晴れ間をもたらしてくれていたかのようでした。

 奇跡とも言うべき数々の現象を目の当たりにしたジョンニュートン(当時22歳)は、心の底から沸き上がる確信とともにこうつぶやくのでした。

 「私には分かる。祈りを聞き届けてくださる神は存在すると。私はもはや以前のような不信な者ではない。私はこれまでの不敬を断ち切ることを心から誓う。私は神の慈悲に触れ、今までの自分の行動を心から反省している。私は生まれ変わったのだ。」

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