ガンダーラってどこ?天竺とは?ゴダイゴの歌詞

ドラマ「西遊記」エンディングで歌われた「どこかにあるユートピア」とは?

1978年のドラマ「西遊記」では、ゴダイゴ『ガンダーラ』がエンディング曲として流れ、オープニングの『モンキーマジック(Monkey Magic)』と共に人気を博した。

ドラマ「西遊記」は、孫悟空らを率いる三蔵法師が「天竺(てんじく)」を目指すストーリーであり、ガンダーラは途中で通過する(可能性がある)国の一つに過ぎず、ドラマ内では一切触れられない。

にもかかわらず、毎回エンディング曲で連呼されるため、ガンダーラが目的地なのかと誤解してしまう方も少なくなかったのではと思われる。

ガンダーラは、現在のパキスタン北西部に存在した古代王国。紀元前6世紀から存続し、1世紀から5世紀には仏教を信奉したクシャーナ朝のもとで最盛期を迎えた。パキスタンのペシャーワル付近がガンダーラ王国の中心。

天竺(てんじく)は、「インド」を指す名称であり、古代中国で使われた。日本では、「唐土(中国)、天竺(インド)、日本」を三国と呼び、これをもって全世界と表現していた。

それにしても、天竺(てんじく)を目指すドラマのエンディング曲に、なぜ「ガンダーラ」を主題とする楽曲が用いられたのだろうか?

その理由について、簡単に解説してみたい。

歌詞の内容

まずは、ゴダイゴ『ガンダーラ』の歌詞(日本語版)を次のとおり引用して、ガンダーラがどのような場所として描かれているのか、その内容を簡単に確認してみたい。

作詞・作曲 作詞:奈良橋陽子 (日本語詞:山上路夫) 作曲:タケカワユキヒデ

ゴダイゴ ベスト盤

【YouTube】ゴダイゴ『ガンダーラ』

そこに行けば どんな夢も
かなうと言うよ
誰もみな 行きたがるが
遥かな世界

その国の名は ガンダーラ
どこかにある ユートピア
どうしたら 行けるのだろう?
教えて欲しい

In Gandhara, Gandhara
They say it was in India

Gandhara, Gandhara
愛の国 ガンダーラ

生きる事の 苦しみさえ
消えると言うよ
旅立った人はいるが
あまりにも遠い

自由な そのガンダーラ
素晴らしい ユートピア
心の中に生きる 幻(まぼろし)なのか

In Gandhara, Gandhara
They say it was in India

Gandhara, Gandhara
愛の国 ガンダーラ

英語で「They say it was in India(ガンダーラはインドにあった)」と歌われているが、上述のとおり、現代の地図で言えば、ガンダーラ王国はパキスタン北西部にあった。

歌詞の日本語部分では、「どんな夢もかなう」「どこかにあるユートピア」「生きる事の苦しみさえ消える」といったように、現実離れした空想上の世界のような描写が見受けられる。

ユートピアとは、現実には決して存在しない理想的な社会、理想郷(りそうきょう)のこと。

現実世界にも使われ、例えば1970年代のヒッピー文化におけるサンフランシスコのように、特定の思想や嗜好を持つ人々の願望が叶う場所などを「ユートピア」と呼ぶ場合がある。

ゴダイゴ『ガンダーラ』がリリースされた1978年頃は、愛と自由を叫んだヒッピー運動はすでに全盛期を過ぎていたが、歌詞にある「自由な」「愛の国」などの表現に、少なからずヒッピー文化の余韻が感じられる。

ガンダーラの隣はヒッピーの聖地

ちなみに、ヒッピー文化におけるユートピア(ヒッピー運動が盛んな場所・聖地)はサンフランシスコ以外にも世界中に存在する。

ガンダーラに関連するアジア圏では、アフガニスタンのカブール(カーブル)、ネパールのカトマンズ、インド西海岸のゴアなどがあり、これらはアジアの「ヒッピー三大聖地」と呼ばれた。

ヒッピー三大聖地のカブールは、ガンダーラ王国の西端と隣接しており、地理的な関連性が深い。

もしかしたら、ガンダーラの歌詞は、ヒッピーの聖地・ユートピアとしての意味合いが暗に表現されているのかもしれない。

作詞の経緯

さて、一体なぜ、ドラマ「西遊記」のエンディング曲として「ガンダーラ」が題材として選ばれたのだろうか?

作詞は『モンキーマジック(Monkey Magic)』と同じく、ガンダーラのプロデューサー、ジョニー野村の当時の妻・奈良橋 陽子に英語の歌詞で依頼された。

その方向性として、ドラマ「西遊記」の世界観に合せるべく、異国情緒あふれるエキゾチックな作詞が求められた。

しかし奈良橋は5歳の頃から10年ほどカナダで生活しており、エキゾチックなイメージの引き出しがほとんどなかったという。

唯一思い浮かんだのが、帰国後に通った国際基督教大学(ICU)において、考古学の授業で学んだガンダーラ美術だった。ガンダーラは、理想郷としてずっと彼女の頭に残っていたそうだ。

ガンダーラ美術とは?

ガンダーラ美術(Gandhara art)とは、ガンダーラ地方を中心に紀元前後から5世紀頃まで栄えた仏教美術。海外ではギリシャ仏教美術(Greco-Buddhist art)と呼ばれることが多い。

ギリシア彫刻の手法を用いて写実的な仏像や菩薩像が作られ、作品はほとんどがレリーフ(浮彫)であり、多くがストゥーパ基壇の壁面に飾られた。

ガンダーラ美術のレリーフ

写真:ガンダーラ美術のレリーフ(出典:Wikipedia)

インドじゃないけど大丈夫?

歌詞でエキゾチックな雰囲気を演出するために、抽象的なモデルとして「ガンダーラ」を意識すること自体は特に問題がないと思われるが、実際の歌詞では具体的な固有名詞として「ガンダーラ」が連呼され、それが曲名にも採用されて、完全にガンダーラを題材とした内容となっている。

前述のとおり、ドラマ「西遊記」の目的地はガンダーラではなく、天竺への通過点に過ぎない事から、天竺よりもガンダーラが前面に押し出されて目立ってしまうのは、特に大きな問題が生じるわけではないとしても、主目的であるドラマ放映との関係上あまり好ましい状況ではない。

文字通りガンダーラについての歌になったことについて、作曲者のタケカワユキヒデ氏は次のように語っている(ウィキペディアより引用)。

西遊記でガンダーラについて歌うということで、その整合性を突っ込まれたらどうしようかと思っていたが、後から三蔵法師がガンダーラへ行ったことがあると知ってタケカワは胸をなでおろしたという。

ガンダーラは三蔵法師が天竺へ行く通過点だったということで、ドラマ「西遊記」との関連性もみつかり、とりあえず作曲者側の心配はある程度和らいだようだ。

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