千の風になって 歌詞と元ネタ 原曲の和訳

電通社員が作曲 秋川雅史のカバーが大ヒット 元ネタはアメリカの詩

「私のお墓の前で泣かないでください」の歌い出しで知られる『千の風になって』は、2001年に電通社員(当時)の新井 満(あらい まん)が作詞作曲した楽曲。

2006年5月に秋川雅史のカバーがリリースされ、同年末の「第57回NHK紅白歌合戦」で披露されたことで、翌2007年に大ヒット曲となった。つまり、ヒットしたのは紅白出場の後(翌年)。

歌詞の元ネタは、アメリカ発祥の詩『Do not stand at my grave and weep』(ドゥー・ノット・スタンド・アット・マイ・グレイヴ・アンド・ウィープ)。

ただし、この詩を訳したのは新井満が初めてではなく、作家・編集者の南風 椎(はえ しい)が1990年(平成2年)に『1000の風』の邦題で発表している。

このページでは、『千の風になって』歌詞を引用しながら、元ネタであるアメリカの詩『Do not stand at my grave and weep』と内容の違いを簡単に比較してみたい。

そして、最初に元ネタの詩と訳を発表していた編集者の南風 椎は、新井 満による『千の風になって』についてどのような評価を行っているのかについて、簡単にまとめておきたい。

【YouTube】千の風になって 秋川雅史

歌詞『千の風になって』

まずは、新井 満の作詞による『千の風になって』歌詞を次のとおり引用し、その内容を簡単に確認してみよう。

私のお墓の前で
泣かないでください
そこに私はいません
眠ってなんかいません

千の風に
千の風になって
あの大きな空を
吹きわたっています

秋には光になって
畑にふりそそぐ
冬はダイヤのように
きらめく雪になる

朝は鳥になって
あなたを目覚めさせる
夜は星になって
あなたを見守る

私のお墓の前で
泣かないでください
そこに私はいません
死んでなんかいません

千の風に
千の風になって
あの大きな空を
吹きわたっています

千の風に
千の風になって
あの 大きな空を
吹きわたっています

あの 大きな空を
吹きわたっています

この歌詞を見ると、元ネタであるアメリカの詩に基づいた訳詞となっていることが分かる。

亡くなってお墓に埋葬された人が、生きている遺族に向けて語りかける形式も原詩と同じ。

一つ特徴的なのが、「いません」の語尾を繰り返して、「せん」の音で韻を踏んでいること。『千の風になって』の「千」を強調するような役割が感じられる。

元ネタの歌詞(英語)・和訳(意訳)

次に、元ネタであるアメリカの詩『Do not stand at my grave and weep』(ドゥー・ノット・スタンド・アット・マイ・グレイヴ・アンド・ウィープ)の和訳を次のとおり掲載する。

「風」だけが強調されている『千の風になって』と異なり、原詩では、雪や雨、太陽や星などの様々な自然や天体などが並列的に取り上げられている。

Do not stand at my grave and weep
I am not there; I do not sleep.
I am a thousand winds that blow,
I am the diamond glints on snow,
I am the sun on ripened grain,
I am the gentle autumn rain.

私の墓の前で泣かないでほしい
私はそこにはいない 眠ってはいない
私はそよ吹く千の風
雪上のダイヤモンドの煌めき
穀物に降り注ぐ太陽
優しき秋の雨

When you awaken in the morning's hush
I am the swift uplifting rush
Of quiet birds in circling flight.
I am the soft starlight at night.
Do not stand at my grave and cry,
I am not there; I did not die.

朝の静寂の中 貴方が目覚める時は
私は天高く舞い上がり
空から静かに貴方を見守る
夜には星になって貴方を優しく照らす
私の墓の前で泣かないでほしい
私はそこにはいない
死んでなどいないのだから

【YouTube】Do not stand at my grave and weep

原曲のルーツは?

この詩のルーツについては諸説あるが、アメリカ合衆国メリーランド州ボルティモアの主婦メアリー・フライ(Mary Elizabeth Frye/1905-2004)の作とする説が最も有力。

母を亡くして落ち込んでいた友人マーガレットのために茶色の紙袋にしたためた。彼女の家族の友達が詩をはがきに印刷して人々に送り、広く知られるようになったとされている。 歌詞自体にも様々なバージョンが存在する。

最初に訳した作家のコメント

上述のとおり、元ネタであるアメリカの詩を訳したのは新井満が初めてではなく、作家・編集者の南風 椎(はえ しい/本名・長野 眞)が1990年(平成2年)に『1000の風』の邦題ですでに発表していた。

1995年には、南風 椎の著作『1000の風―あとに残された人へ』が出版されている。下の写真はその表紙。

電通社員(当時)の新井 満が『千の風になって』を作詞作曲したのは「2001年」のこと。

南風椎『1000の風―あとに残された人へ』

写真:南風椎『1000の風―あとに残された人へ』(三五館)

南風椎のブログ「森の日記」2010年1月29日(金曜日)のエントリーでは、新井満『千の風になって』について、次のようにはっきりと述べている。

新井満の本は南風椎の本のパクリではないか、という意見はネット上ではたびたび見かけたけど、印刷媒体でこうやって「パクリだ」と明言してくれたのは初めてだと思うので、うれしくてここに掲載させてもらった。 正直に言おう。ぼくもあれは完全なパクリだと考えている。

上掲の書籍『1000の風―あとに残された人へ』は、南風椎が苦労に苦労を重ねてようやく生み出した大事な作品であり、ブログでは「自分の子どものようなもの」とも説明されていたほど。

自分の子供のような大事な作品を盗用された可能性があるとすれば、それを生み出した南風椎氏の怒りや屈辱、無念さはいかばかりかと、想像するだけでも心が痛む。

メロディにも元ネタがあった!?

『千の風になって』に元ネタがあるのは、歌詞についてだけではないかもしれない。

哀しみのソレアード』の邦題で知られるイタリアの楽曲「ソレアード(SOLEADO)」が、『千の風になって』のメロディの元ネタとしてブログ等で紹介されることがあるようだ。

メロディの元ネタがどのような曲か、さっそく聴いてみよう。

【YouTube】Paul Mauriat - Soleado

この『哀しみのソレアード』は、世界的に活躍したポールモーリア楽団がカバーしているほか、英語の歌詞がつけられてクリスマスソングとしても歌われる有名な楽曲。作曲に携わる者なら一度は耳にしているだろう。

作曲も手がける電通社員(当時)の新井 満が、この『哀しみのソレアード』から本当に影響を受けたのかについては定かではないが、元々古い楽曲であり、影響があったとしても冒頭の部分だけなので、歌詞の元ネタほど大きな問題になることはなさそうだ。

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