夢をのせて 歌詞と解説

あふれ来る光を 歌おうよ僕らも やがてやがて 夢をのせて 高く響けと

学校の音楽教科書に掲載されている曲の中に、「ちぎれ雲は風に軽く空を流れる」の歌い出しで親しまれる『夢をのせて』という歌がある。

軽快なリズムとロシア民謡風の若干物寂しいメロディが印象的な曲で、学校を卒業して社会人になってからも、メロディだけでなく、1番の歌詞ぐらいは今でも何も見ずに歌えてしまうという方も少なくないのではないだろうか?

この『夢をのせて』の作者情報についてネットで調べてみると、作詞:中山知子、作曲:市川都志春という名前が出てきた。

中山 知子(なかやま ともこ/1926-2008)は童謡詩人でもあり、数多くの海外の文学作品を翻訳している翻訳家としても多くの実績を残している。

市川都志春(いちかわ としはる/1912-1998)は、音楽教科書を主に扱う教育芸術社の創業者として知られ、久野静夫の別名でも数多くの作詞を手掛けている。静岡県浜松市出身だそうだが、「静夫」という別名は「しずおか」の「しずお」から来ているのだろうか。

【YouTube】合唱版 夢をのせて

歌詞

作詞:中山 知子

ちぎれ雲は 風に軽く
空を流れる
陽射し浴びて ゆれるゆれる
朝の木立よ
あふれ来る光を
歌おうよ 僕らも
やがてやがて 夢をのせて
高く響けと

丘に立てば 入り日赤く
海のかなたを
しぶきあげて 進む進む
船の姿よ
憧れる世界を
歌おうよ 私も
やがてやがて 夢をのせて
遠く響けと

『夢をのせて』は外国の民謡?

不思議なことに、ネット上には市川都志春が『夢をのせて』の作曲者だという情報がある一方で、この曲が外国の民謡・伝承歌であるという記述も数多く見られた。

どうやら市販の楽譜や歌集などに掲載されている情報が元になっているようで、具体的には「ロシア民謡」、「ボヘミア民謡(ボヘミヤ民謡)」、または「チェコスロバキア民謡」などと解説がなされているようだ。

確かに、ロシア民謡『コロブチカ(行商人)』と曲の雰囲気はよく似ており、『夢をのせて』が海外の民謡であるとしたら、ロシアかその周辺国の可能性が高いように思われる。

では、具体的にどこの国の民謡なのかと問われると、結論から言えば、残念ながら筆者は該当する曲に関する具体的な知識を持ち合わせていなかった。あとはJASRAC頼みだ。

JASRACのデータベースでは2件該当

JASRACのデータベースなら何か手がかりがあるかと調べてみたところ、「中山知子」による『夢を乗せて』は2件該当することがわかった。

1件は、「作詞:中山知子、作曲:市川都志春」とされるもの。もう1件は、「訳詞:中山知子、作詞:P.D.(著作権消滅)、作曲:P.D.(著作権消滅)」とされる曲が登録されていた。

ここで注目されるのは、中山知子による「作詞」と「訳詞」の『夢をのせて』がそれぞれ存在し、「訳詞」の方はすでに著作権が消滅した古い曲であるという点だ。

「作詞」と「訳詞」の『夢をのせて』

しかも「訳した詞」であるということは、それが海外の曲であることも判明する。ただ残念ながら、訳詞した原曲が具体的にどこの国のどんな曲なのかについてはまったく情報が掲載されていなかった。

この2曲の関連性についてはそれ以上調べようがなかったが、同一人物が同一のタイトルで全く違う楽曲の歌詞を手掛けることはあまりないように思われる。つまり、この2曲の『夢をのせて』は同一のルーツを持った曲である可能性が高いと言えよう。

ここからは筆者の勝手な想像だが、恐らく翻訳家である中山知子氏が最初に何らかの外国の民謡を訳詞して『夢をのせて』と題し、それが何らかの経緯で学校の音楽教科書に掲載される曲の候補にあがり、音楽の授業にふさわしい曲とするべく歌詞とメロディがそれぞれ修正され、その結果新たな作詞・作曲者として中山知子・市川都志春の両名が著作権登録されたというストーリーが存在したのではないだろうか?

こういった経緯はよくある話だと思われ、特段問題はないように思われるが、できるのであれば、最初に中山知子氏がどんな世界の民謡・童謡を訳詞したのか、具体的な曲名・国名などの情報をちゃんと後世に残して欲しかったというのが筆者の本音である。

今後も当サイトで『夢をのせて』の原曲についての情報収集は継続していく。何か具体的な進展があり次第、このページに追記していく予定だ。