坊がつる讃歌 歌詞の意味・由来

大分県九重連山の坊ガツル湿原を題材とした山男の歌

『坊がつる讃歌』は、大分県竹田市の盆地・湿原「坊ガツル」を題材とした愛唱歌。作詞:神尾明正、補作:松本征夫、作曲:竹山仙史。

NHK「みんなのうた」で1978年6月に初回放送された。歌:芹洋子(せり ようこ/1951-)。同年末のNHK紅白歌合戦において、芹洋子は同曲で初出場を果たしている。

写真:坊ガツル湿原(出典:ツーリズムおおいた 大分県観光情報サイト)

元歌・原曲は、広島高等師範学校の山岳部第一歌『山男の歌』(広島高師の山男)。これを九州大学の学生が「坊ガツル」を題材に替え歌した。

この替え歌はその後、九州の山岳愛好者の間で広まった。1977年には、歌手の芹洋子が野外コンサートで阿蘇山麓を訪れた際、宿舎で若者たちにこの替え歌を教えてもらったという。NHK「みんなのうた」での放送はその翌年のことである。

【YouTube】 歌:芹洋子 坊がつる讃歌

歌詞の意味

『坊がつる讃歌』の歌詞の意味について、主なキーワードをいくつか補足・解説してみたい。まずは1番から2番の歌詞を次のとおり引用する。

1.
人みな花に 酔うときも
残雪恋し 山に入り
涙を流す 山男
雪解(ゆきげ)の水に 春を知る

2.
ミヤマキリシマ 咲き誇り
山くれないに 大船(たいせん)の
峰を仰ぎて 山男
花の情(なさけ)を 知る者ぞ

<引用:『坊がつる讃歌』1番・2番の歌詞>

ミヤマキリシマ(深山霧島)とは、阿蘇山、九重山、雲仙岳、鶴見岳など九州各地の高山に分布するツツジの一種。

ミヤマキリシマ

写真:ミヤマキリシマ(出典:Wikipedia/photo by Ray_go)

大船(たいせん)とは、九重連山(くじゅうれんざん)を形成する火山のひとつ「大船山(たいせんざん)」のこと。

大船山とミヤマキリシマ

写真:大船山とミヤマキリシマ(出典:Wikipedia/photo by tsuda)

大船山の山腹にはミヤマキリシマが群生し、「大船山のミヤマキリシマ群落」として国の天然記念物に指定されている。

3番・4番の歌詞の意味

『坊がつる讃歌』3番・4番の歌詞を次のとおり引用する。

3.
四面(しめん)山なる 坊がつる
夏はキャンプの 火を囲み
夜空を仰ぐ 山男
無我を悟るは この時ぞ

4.
出湯(いでゆ)の窓に 夜霧来て
せせらぎに寝る 山宿(やまやど)に
一夜を憩う 山男
星を仰ぎて 明日を待つ

<引用:『坊がつる讃歌』3番・4番の歌詞>

坊ガツルには法華院温泉の山荘があり、九州で一番高い位置(標高1,303m)にある温泉であるとともに、敷地内でキャンプを楽しむことができる。

法華院温泉山荘

写真:法華院温泉山荘(出典:Wikipedia/photo by Somey)

そもそも、「坊ガツル」の「坊」とは、鎌倉時代に開かれた九重山法華院白水寺(天台宗)を指しており、明治時代に法華院温泉山荘となって今日に至っている。久住高原温泉郷の一つ。

ちなみに、「坊ガツル」の「ツル」とは川のある平らな土地を意味しており、「坊ガツル」とはすなわち「法華院近辺の湿地帯」を指していることになる。

5番の歌詞の意味

『坊がつる讃歌』5番の歌詞を次のとおり引用する。

5.
石楠花谷(しゃくなげだに)の 三俣山(みまたやま)
花を散らしつ 篠(しの)分けて
湯沢に下る 山男
メランコリーを知るや君

<引用:『坊がつる讃歌』5番の歌詞>

三俣山(みまたやま)とは、九重連山を形成する火山の一つで、登山口の長者原(ちょうじゃばる)から見て正面に位置する山。春にはツクシシャクナゲが咲く。

三俣山のシャクナゲ

写真:三俣山のシャクナゲ(出典:ブログ「放浪記」より)

ちなみに三俣山の名前は、漢字の「山」の象形の如く、どこから見ても3つの峰(みまた)が見えることに由来している。

6番の歌詞の意味

『坊がつる讃歌』6番の歌詞を次のとおり引用する。

6.
深山紅葉(みやまもみじ)に 初時雨(はつしぐれ)
暮雨滝(くらぞめたき)の 水音を
佇(たたず)み聞くは 山男
もののあわれを 知る頃ぞ

<引用:『坊がつる讃歌』6番の歌詞>

時雨(しぐれ)とは、秋の末から冬の初めごろに降ったりやんだりする小雨。

暮雨滝(くらぞめたき)とは、九重連山にある暮雨(くらぞめ)の滝のこと。吉部(よしぶ)登山口から坊がつる・法華院温泉方面に向かう登山コースの途中にある。落差7メートル、幅15メートル。

写真:暮雨(くらぞめ)の滝(出典:twitter@iksho_alpha)

「もののあわれ(あはれ)」とは、しみじみとした情趣や無常観的な哀愁を意味する美的理念のこと。平安時代の『源氏物語』における文学的な美意識に代表される概念。

7番以降の歌詞の意味

『坊がつる讃歌』7番以降の歌詞を次のとおり引用する。

7.
町の乙女等(おとめら) 思いつつ
尾根の処女雪 蹴立(けた)てつつ
久住(くじゅう)に立つや 山男
浩然(こうぜん)の気は 言いがたし

8.
白銀(しろがね)の峰 思いつつ
今宵(こよい)湯宿(ゆやど)に 身を寄せつ
斗志(とうし)に燃ゆる 山男
夢に九重(くじゅう)の 雪を蹴る

9.
三俣の尾根に 霧飛びて
平治(ひいじ)に厚き 雲は来ぬ
峰を仰ぎて 山男
今草原の 草に伏す

<引用:『坊がつる讃歌』7番以降の歌詞>

久住(くじゅう)とは、九重山(九重連山)を形成する火山・久住山(くじゅうさん)のこと。標高1786.50m。日本百名山に選ばれている。

久住山

写真:久住山(出典:Wikipedia/photo by muneaki)

「浩然(こうぜん)の気」とは、中国の儒学者・孟子(もうし)が説いた概念で、天地に充満する、生命や活力の源となる気のこと。転じて、俗事にとらわれない、広く大きな気分を意味する。

斗志(とうし)とは、「闘志(とうし)」のこと。ここでは、厳しい登山に挑戦する山男の強い意志や気概のようなものと推測される。

九重(くじゅう)とは、九重山(くじゅうさん)または九重連山(くじゅうれんざん)のこと。

平治(ひいじ)とは、九重連山の一つ「平治岳(ひいじだけ)」のこと。ミヤマキリシマが群生する春の観光スポット。

元歌『雲に消えゆく山男』

1.
白い雲に憧れて
霧まく尾根を
行く夢は
星空仰ぎ山男
カンテラふって山男

2.
赤い石楠花ひらく径
ケルンを積んで
行く径は
足音つよく山男
クレバスこえて山男

3.
夕日の落ちた岩蔭を
重いアイゼン
踏みしめて
雲に消えゆく山男
心のふかき山男

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