寿限無 じゅげむ 意味・語源・由来

イオンの社名とも関連? 子供の長生きを願った長い名前

「寿限無(じゅげむ)寿限無、 五劫の擦り切れ(ごこうのすりきれ)」の出だしで有名な落語の前座噺・小噺の『寿限無(じゅげむ)』。

早口言葉のような長い長いフレーズは、実は子供の名前。元気で長生きするように、無限や無数を意味する語呂のいい言葉や、縁起のいい言葉が並べ立てられている。

寿限無の語源は、仏教用語の「無量寿(むりょうじゅ)」。これは阿弥陀仏の語源とも関連し、「五劫(ごこう)」とも関係が深い。「劫」はイオンの社名にもつながる(詳細は後述する)。

写真:寿限無の語源と関連する阿弥陀如来座像(鎌倉大仏/出典:Wikipedia)

このページでは、『寿限無(じゅげむ)』の長い台詞一つ一つについて、主に仏教との関連から、その意味や語源・由来などを簡単に解説していく。

長い名前の全文・読み方

寿限無(じゅげむ) 寿限無
五劫(ごこう)の擦り切れ(すりきれ)
海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の
水行末(すいぎょうまつ)・雲来末(うんらいまつ)・風来末(ふうらいまつ)
喰う寝る処(ところ)に住む処
藪(やぶ)ら柑子(こうじ)の藪柑子(やぶこうじ)
パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン
シューリンガンのグーリンダイ
グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
長久命(ちょうきゅうめい)の長助(ちょうすけ)

寿限無 じゅげむ

小学館「デジタル大辞泉」によれば、漢字の「寿(じゅ)」は次のように解説されている。

1 命の長いこと。長生き。長命。
2 長命の場合の年齢。
3 祝いの言葉や贈り物。

この1番の意味を当てはめると、「寿限無」は「限り無く長生き」、といった意味になる。

「寿」を「ことぶき」の意味で解釈した場合、「限り無くめでたい」の意味にも解釈できるが、子どもの長生きを願う名前の一部なので、ここでは「限り無く長生き」の意味が相応しい。

無量寿と阿弥陀仏

「寿限無」という造語の由来は、大乗仏教の経典の一つである「無量寿経(むりょうじゅきょう」が語源となっていると考えられる。

無量寿(むりょうじゅ)とは、「量りしれない寿命を持つ者」という意味のサンスクリット語「アミターユス」の訳で、すなわち「阿弥陀如来(あみだにょらい) 」、「阿弥陀仏」を意味している。

阿弥陀三尊像(兵庫・浄土寺)

「無量寿経」によれば、はるか昔、とある国王が悟りを得ようと王位を捨て、法蔵菩薩と名乗り修行を始めた。

五劫(こう)という途方もなく長い長い修行期間を経て(五劫思惟)、ついに仏となった。この仏が阿弥陀仏と呼ばれる。

写真:阿弥陀三尊像(兵庫・浄土寺)出典:Wikipedia

劫(こう)の意味は?

法蔵菩薩の修業期間である「五劫(ごこう)」の「劫(こう)」とは、仏教などインド哲学における極めて長い宇宙論的な時間の単位。ヒンドゥー教では43億2000万年で1劫とされる。

天女の羽衣

「劫」の長さのたとえ話としては、富士山よりも大きな岩を、百年(千年とも)に一度、天女の羽衣(はごろも)がサラリと岩に触れ、この岩が擦り切れて無くなるまでの時間(またはそれ以上)が「劫」の長さだという。

これをさらに5回繰り返した宇宙規模の長い長い時間が「五劫(ごこう)の擦り切れ」というわけだ。

イオンの社名とのつながり

「劫(こう)」は、サンスクリットのカルパ(kalpa)を漢訳したもので、西洋では「イーオン(aeon)」と英訳されることがある。

この英語の「イーオン(aeon)」は、日本の大手小売業イオングループの社名であるイオンの語源・由来となっている。

イオンのロゴ

写真:イオンのロゴ(大阪府茨木市)出典:Wikipedia

イオンフィナンシャルサービスの企業サイトでは、イオンの語源について次のように説明されている。

AEON(イオン)とは、ラテン語で「永遠」をあらわす言葉です。お客さまへの貢献を永遠の使命とし、その使命を果たすなかで、永遠に発展と繁栄を続けていくとの願いを込め…

<引用:イオンフィナンシャルサービス公式Webサイトより>

未来永劫(えいごう)とも使われる「劫(こう)」の概念は、『寿限無(じゅげむ)』とイオングループの社名を結びつける役割を果たしていたとは面白い話だ。

海砂利水魚 かいじゃりすいぎょ

無数に存在する海の砂利(じゃり)や水中の魚を例えに出すことで、子供の寿命が長くなるように、長生きしますようにとの願いが込められている。

ちなみに、上田晋也と有田哲平によるお笑いコンビ「くりぃむしちゅー」は、改名前は「海砂利水魚」がコンビ名だった。

水行末・雲来末・風来末

水行末(すいぎょうまつ)・雲来末(うんらいまつ)・風来末(ふうらいまつ)とは、水の流れや雲・風などの来し方行く末のように限りが無いことのたとえ。

おそらく、子どもの末広がりの明るい未来を願ったものだろう。

喰う寝る処に住む処

「食う寝る処(ところ)に住む処」では、子供の将来を心配するにあたって、生活の最も基本と言える衣食住の「食」と「住」について困らずに生きていけるよう願っている。

藪柑子 やぶこうじ

「藪柑子(やぶこうじ)」とは、冬に赤い果実をつける常緑のヤブコウジのこと。正月の縁起物であり、子供の将来に縁起の良い植物として列挙されたと思われる。

ヤブコウジ

『寿限無(じゅげむ)』の台詞では、語呂を良くするため、やぶ「ら」こうじと変則的な名前で用いられている。さらに「藪ら柑子のぶらこうじ」のようなセリフとなる場合もあるようだ。

写真:ヤブコウジ(出典:東京生薬協会Webサイト)

パイポ、シューリンガン

落語『寿限無(じゅげむ)』の小話の中では、昔の中国大陸にパイポという王国があったという。もちろん話の中だけの架空の国の名前だ。

パイポ王国では、シューリンガンという王様と、グーリンダイというお后(きさき)がおり、その娘がポンポコピーとポンポコナーという名前だったそうだ。

この二人の娘はとても長生きだったため、子供の名前の候補として小話の中に登場したようだ。

ちなみに、禁煙パイポというタバコ型の禁煙グッズがある。この「パイポ」は刻みたばこを詰めて吸う喫煙具「パイプ」が主な語源と思われるが、実は『寿限無』のパイポも命名の参考にされていたのかもしれない。

長久命

「長久命(ちょうきゅうめい)」とは、漢字からもほぼ推測できるが、長く久しい命、つまり長寿を意味している。

「長久(ちょうきゅう)」は、中国春秋時代における哲学者『老子(ろうし)』に登場する「天長地久」を語源とする言葉。

「天長地久」は、「天は長く地は久し」と読み、天地が永久に不変であるように、物事がいつまでも変わらずに続くことを意味する。

後朱雀天皇の時代(1040-1043)にこの「長久(ちょうきゅう)」が日本の元号として用いられている。

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