お市の方 柴田勝家 辞世の句 意味・現代語訳

柴田勝家の正室として最期を迎えたお市の方と別れの歌

織田信長の13歳離れた妹(または従妹)・お市の方は、浅井長政との政略結婚や、娘である茶々が豊臣秀吉の側室となるなど、日本の歴史において要となる人物であり、大河ドラマや歴史小説などによく登場する。

本能寺の変で信長が没すると、同年の天正10年(1582年)、お市の方は柴田勝家の正室となったが、勝家は翌年に羽柴秀吉と対立し、賤ヶ岳の戦いに敗れてしまう。

お市の方 柴田勝家

北ノ庄城に逃れた勝家らは秀吉の軍勢に包囲され、お市の方と共に自害した。お市の方は、次のような辞世の句を詠んだとされる(享年37)。

さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の
別れ(夢路)を誘ふ 郭公(ほととぎす)かな

<引用:お市の方 辞世の句より>

なお、お市の方は秀吉を毛嫌いしており、勝家が自害する時に城から脱出するように勧めたが、市は受け入れずに勝家と運命を共にしたという。

秀吉は彼女に熱烈な好意を抱いていたとされ、小谷落城の際も賤ヶ岳落城の際にも、母子の生命を何とか救おうとしていた。また後年茶々(淀殿)を側室に迎えたのも、三姉妹の中で彼女が一番お市の方に似ていたから、とも言われている。

現代語訳・口語訳

お市の方 辞世の句について、現代語訳・口語訳を次のとおり例示する。

さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の
別れを誘ふ 郭公(ほととぎす)かな

そうでなくても
眠る間もないほど短い夏の夜に
この世との別れを急かすのか
ホトトギスよ

「さらぬだに」とは?

「さらぬだに(そうでなくても)」とは、敵軍に包囲され、いますぐに自決してこの世と別れを告げなければならないこんな状況でなくても、といった意味合い。

冥土の使い ホトトギス

ホトトギスは、別名「田長鳥(たおさどり)」または「死出の田長(しでのたおさ)」と呼ばれる。

人が死後に行く冥土(めいど)にあるという険しい山「死出の山(しでのやま)」と結び付けられ、ホトトギスは冥土(冥途/めいど/あの世)から迎えに来る使いの鳥として、「死」と関連する文脈で用いられることがある。

元となった和歌について

お市の方が詠んだ辞世の句には、影響を与えたとされる和歌が存在する。新勅撰和歌集159 藤原俊成の歌を次のとおり引用する。

さらぬだに ふす程も無き 夏の夜を
待たれても鳴く 時鳥(ほととぎす)哉

意味としては、「寝る間もないほど短い夏の夜に、朝を告げるホトトギスが鳴くのをつい待ってしまう」といった内容。

ここでのホトトギスは「冥土の使い」ではなく、朝を告げる「時鳥」としての意味合いで用いられている。

柴田勝家の返歌

お市の方が詠んだ辞世の句に対して、共に自害した柴田勝家は次のような返歌を詠んでいる。

夏の夜の 夢路はかなき 後の名を
雲居にあげよ 山郭公(ほととぎす)

<引用:柴田勝家 辞世の句より>

返歌の意味

夏の夜の夢のように儚い人生だった
我が名を後の世に語り伝えてくれ
山ホトトギスよ

元ネタは足利義輝の辞世

ちなみに、柴田勝家の返歌は、足利義輝の辞世の句が元ネタと考えられる。

五月雨は 露か涙か 不如帰(ほととぎす) 我が名をあげよ 雲の上まで

<引用:足利義輝 辞世の句より>

足利 義輝(あしかが よしてる/1536-1565〉は、室町幕府第13代征夷大将軍。三好長慶の没後に実権を奪った松永久秀らによって急襲され落命した。2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」では、俳優の向井理(むかい おさむ)が演じた。

徳川家・天皇家との関係

浅井長政とお市の方の三女・江(ごう)は、秀吉の甥・豊臣秀勝と結婚し、娘の完子は九条家に嫁ぎ、後に子孫の九条 節子は大正天皇皇后となった。

豊臣秀勝が病死すると、江は徳川秀忠(後の第2代将軍)の元に嫁ぎ、徳川家光(後の第3代将軍)、徳川和子など2男5女を儲けた。

徳川和子は後水尾天皇の中宮となった。したがって、大正天皇および皇后は、系譜をさかのぼると、お市の方の三女・江につながることになる。

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