からすの赤ちゃん

三苫 やすしの詩を作曲者が即興でアレンジ

『からすの赤ちゃん』は、『お猿のかごや』で知られる海沼 實(かいぬま みのる/1909-1971)が1941年に作曲し、戦後にヒットした日本の童謡

歌詞は、童謡『仲よし小道』の原詩で知られる童謡作詩家三苫 やすし(みとま やすし/1910-1949)の詩文「なぜなくの(啼くの)」に基づき、作曲者の海沼實自身が珍しく作詞を手掛けている(事情は後述する)。

【YouTube】からすの赤ちゃん

他社に先を越され やむなく歌詞変更

実は当初、三苫 やすしの詩「なぜなくの(啼くの)」は原文そのままメロディをつけてレコーディングされる予定だったが、なんと収録直前に他者に先を越されて発売されてしまった。

このまま曲を無駄にしてしまうのはもったいないと、急遽作曲者自身が即興に近い形で歌詞を修正し、『からすの赤ちゃん』としてリリースにこじつけたという。

詩文を勝手に改変してしまったことに後ろめたさを感じたのか、発売当初は作詞者の実名は伏せられ、「矢島邦子」という架空の名前を表示していた。

戦後に再リリースされた際には、海沼實の名前が明示された。ネームバリューのある作詞者表示によって、曲のヒットにもつながったようだ。

研究目的において、三苫 やすしの原詩と海沼實の歌詞を次のとおり掲載しておくので、比較しながらご覧いただきたい。原詩と共通点が多いことが良くわかるだろう(現代ならほぼアウト)。

歌詞:からすの赤ちゃん(作詞:海沼實)

からすの赤ちゃん なぜなくの
こけこっこの おばさんに
あかいお帽子 ほしいよ
あかいお靴も ほしいよと
かあかあ なくのね

めえめえ山羊(やぎ)さん なぜなくの
お里の 母さんに
おねむに なったよ
あまいおっぱい 頂戴(ちょうだい)ねと
めえめえ なくのね

迷子の鳩さん なぜなくの
みみずく おじさんに
夜路(よみち)は こわいよ
ほおずき提灯 かしとくれと
ほろほろ なくのね

狐の赤ちゃん なぜなくの
三日月 おばさんに
木の葉でかんざし 買っとくれ
小石で花ぐし 買っとくれと
こんこん なくのね

原詩:三苫 やすし「なぜなくの(啼くの)」

お山の鴉(からす)は なぜなくの
夕焼け お日さんに いうことにゃ
赤い ぞんぞ 頂戴(ちょうだい)な
赤い 帯 頂戴なと
カアカア なくのね

田圃(たんぼ)の蛙は なぜなくの
雨降り お月さんに いうことにゃ
傘を かして頂戴な
みのを かして頂戴なと
ゲッコゲッコ なくのね

牧場の子馬は なぜなくの
父さん お馬に いうことにゃ
お靴を 買って 頂戴な
お鈴を つけて 頂戴なと
ヒンヒン なくのね

かわいい お人形 なぜなくの
お眼めが さめると いうことにゃ
おいしい おめざを 頂戴な
早く 起こして 頂戴なと
マアマア なくのね

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