故郷を離るる歌

さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば

『故郷を離るる歌』(こきょうをはなるるうた)は、1913年7月に出版された「新作唱歌 第五集」に掲載された日本の唱歌。「さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば」のフレーズが印象的。

ドイツ民謡・歌曲『Der letzte Abend 最後の夜』を原曲とし、『早春賦 そうしゅんふ』で知られる日本の作詞家・吉丸一昌(よしまる かずまさ/1873-1916)により訳詩(作詞)された。

一説によれば、原曲『Der letzte Abend』は現在のドイツ国内ではほとんど知られていないという。作詞・作曲者や作曲された年代などは一切不明だが、ドイツ中部フランケン地方の民謡という情報もあるようだ。

「民謡」というよりは「歌曲」に近い完成度の楽曲であり、おそらくはシューベルト歌曲のように、しっかりとした作り手による作品だったのだろう。

【YouTube】故郷を離るる歌 Der letzte Abend

訳詩:吉丸一昌

園の小百合 撫子(なでしこ) 垣根の千草
今日は汝(なれ)をながむる 最終(おわり)の日なり
おもえば涙 膝をひたす さらば故郷
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば

つくし摘みし岡辺よ 社(やしろ)の森よ
小鮒(こぶな)釣りし小川よ 柳の土手よ
別るる我を 憐れと見よ さらば故郷
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば

此処(ここ)に立ちて さらばと 別れを告げん
山の蔭の故郷 静かに眠れ
夕日は落ちて たそがれたり さらば故郷
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば
さらば故郷 さらば故郷 故郷さらば

<右写真:カワラナデシコ(ヤマトナデシコ)の花>

ドイツ歌曲『Der letzte Abend 最後の夜』 大意

1.
Wenn ich an den letzten Abend gedenk,
Als ich Abschied von dir nahm !
(注:冒頭の節を2回繰り返し歌う。以後も同様。)

Ach, der Mond, der schien so hell,
Ich mußt scheiden von dir,
Doch mein Herz bleibt stets bei dir,

君と別れた最後の夜を思う
月は明るく輝き
僕の心はいつも君と共に

[Chor]
Nun ade, ade, ade, nun ade, ade, ade,
Feinsliebchen lebe wohl !

<コーラス>
さよなら 愛しの恋人よ 元気で

2.
Meine Mutter hat gesagt,
Ich sollt 'ne Reiche nehm'n,
Die da hat viel Silber und Gold.

Doch viel lieber will ich mich
In die Armut begeb'n,
Als dich, mein Schatz, verlassen.

金持ちの娘と結婚しろと母は言う
でも貧乏だっていい 君と暮らしたいんだ

<コーラス>

3.
Großer Reichtum bringt uns keine Ehr,
Große Armut keine Schand.

Ei, so wollt ich, daß ich
Tausend Taler reicher wär
Und hätt' dich an meiner Hand.

富は名誉ではなく
貧乏は恥ではない
もし僕が金持ちなら
君をこの手に抱きしめられるのに

<コーラス>

4.
Ich gedenke noch einmal reich zu werd'n,
Aber nicht an Geld und Gut.

Wollte Gott mir nur schenken
Das ewige Leb'n,
Ei, so bin ich reich genug.

僕は豊かになるつもりだ
でもそれはお金や物じゃない
神の下で永遠の命を得られれば
この上なく豊かになれるんだ

<コーラス>

5.
Das ewige Leb'n, viel Glück und Seg'n
Wünsch ich dir viel tausendmal !

Und du bist mein Schatz
Und du bleibst mein Schatz,
Bis in das kühle Grab.

君に何千回も祈ろう
永遠の命、幸福そして祝福を
君は僕の宝
いつまでも君は僕の宝
冷たい墓の中でも

<コーラス>

原曲の歌詞の意味・内容は?

ドイツ語の原曲『Der letzte Abend』の歌詞を見ると、家庭の事情で好きな女性と結婚できず、彼女と別れた最後の夜を嘆き悲しんで、本当の幸せとは何かを訴え、彼女の幸せを願うという悲恋の歌となっている。特に最後の4番・5番のくだりは死を暗示させる。

日本で訳詩された『故郷を離るる歌』の歌詞では、別れを告げるという内容は原曲と同じだが、その対象が女性ではなく、タイトルどおり自分の生まれ育った故郷の懐かしい情景に向けられている。

故郷との別れをテーマとした日本語版では、百合や撫子(なでしこ)、千草、つくし、ヤナギなどの草木や、森・山・川などの自然を表す単語が歌詞に盛り込まれ、二番の「小ぶな釣りし小川」などは唱歌『故郷 ふるさと』を彷彿とさせる。

故郷を離れて戦うウルトラマンとの関係は?

まったくの余談なので読み飛ばしていただきたいが、『Der letzte Abend』の最後のサビのメロディの一部は、『帰ってきたウルトラマン』主題歌の最後のサビとよく似ている印象を受ける。

ネットで検索してみると、それほど件数は多くはないが、動画サイトのコメント欄などで「サビが似ている」との感想が散見される。

『帰ってきたウルトラマン』の作曲者は、ドラゴンクエストシリーズの音楽を手掛けたすぎやまこういち氏。ウトルラマンの故郷「M78星雲」から遠く離れた地球で戦う超人の番組テーマソングとして、『故郷を離るる歌』から作曲のヒントを得ていたとしたら、非常に伝わりにくいつながりだが、ちょっと面白い。

関連ページ

有名なドイツ民謡・童謡
『ぶんぶんぶん』、『こぎつね』、『山の音楽家』など、学校の音楽授業・教科書でもおなじみの有名なドイツ民謡・童謡の歌詞と解説まとめ