秋茄子は嫁に食わすな

嫁はネズミ?秋ナスは粕漬だった?元々の意味や解釈まとめ

「秋茄子(ナス)は嫁に食わすな」の意味や解釈、ことわざの由来について簡単にまとめてみた。

ネットで見かける主な意味・解釈としては、①嫁いびり、②体を冷やさぬよう気遣う、③子孫を絶やさぬよう気遣う、など諸説あるようだが、元となった和歌の意味を考えれば、どれも後世の後付け(誤解)のように思われる。

まずは由来とされる鎌倉時代の和歌を確認したうえで、上述の①から③の意味・解釈、派生ネタについて簡単に解説していく。

なお、「秋茄子は嫁に食わすな」以外の秋に関することわざについては、こちらの「秋のことわざ 意味・由来」でまとめているので是非参照されたい。

鎌倉時代の和歌に由来?

「秋茄子は嫁に食わすな」の由来については、鎌倉時代後期の私撰和歌集『夫木和歌抄』(ふぼくわかしょう)に収録された次のような和歌が重要な資料となっている。

秋なすび わささの粕につきまぜて
よめにはくれじ 棚におくとも

「わささ」とは新酒のこと。秋に収穫したナスを酒かすに漬けて粕漬け(奈良漬)を作ったのだろう。「よめにはくれじ」とは、ヨメにはくれてやるなといった意味。

「よめ」の意味は?ネズミ?

ここで「よめ」の意味がポイントになるが、「お嫁さん」の「嫁」と文字通り解釈する他に、これを「ネズミ」の忌み言葉であると考える説があるようだ。

3匹のネズミ

ネズミは繁殖力が強く子沢山なため、地方によってはヨメサマやヨメゴ、オフクサン(お福さん)、ウヘノアネサマなどの忌み言葉で呼ばれており、特に正月には「嫁が君」と表現される。

「よめ」は「夜目」につながり、夜に活動する小動物「ヨモノ(夜物)」が「ヨメ」に転じたとも考えられている。

「よめ」をネズミとして解釈すると、上述の和歌は「棚においてネズミに取られるな」と注意を促す意味合いになる。

嫁にやれない理由は?

上述の和歌で「よめ」を「嫁」と解釈する場合、なぜ秋ナスの粕漬けを嫁に与えようとしないのか、その理由が問題となる。

ネットでよく見かける主な理由について、諸説を簡単にまとめてみた。最後に私見を述べる。

写真:稲成なすの粕漬け(出典:和歌山県Webサイト)

理由1:嫁いびり(美味しいからあげない)

秋ナスの粕漬は美味しい。こんな美味しいものを嫁にくれてやるなんてもったいない。という嫁いびりの意味に解釈する説。

だが、嫁いびりという醜態・愚行をわざわざ和歌にして残す意義が全く理解できず、そんな和歌を自分の和歌集に収録しようと考える趣味の悪い(良識を欠いた)選者もいないと思われる。はっきりいってこの説には賛成できない。

理由2:体を冷やさないよう心配して

東洋医学ではナスは体を冷やす食べ物のため、体を冷やさないようナスを与えないことで、嫁の体を気遣う意味合いに解釈する説。一つの解釈として特に問題はないだろう。

理由3:子孫を絶やさぬよう心配して

秋ナスは種子がないので、子宝に恵まれない事態を連想させる縁起の悪い食べ物だから、子孫を絶やさぬよう心配して嫁に秋ナスを与えないと解釈する説。

これも一つの筋の通った解釈として否定すべき点はないように思われる。

本当の理由は?アルコールが子供に影響するから?

最後に筆者の私見を述べるが、もう一度、「秋茄子は嫁に食わすな」の元となった和歌を見てみたい。

秋なすび わささの粕につきまぜて
よめにはくれじ 棚におくとも

見てのとおり、この和歌では秋ナスは単なるナスではなく、新酒の酒粕に漬けられてアルコールを含んだ粕漬けである。

秋ナスの粕漬けを嫁に与えようとしない本当の理由は、粕漬けに含まれるアルコールが、妊婦の場合は体内から、授乳中には母乳から、子供の脳に影響を与えることを経験的に知っていたからではないだろうか?

まだ鎌倉時代の医学レベルでは、アルコールが胎児や乳児の脳に影響を与えることが客観的に立証されてはいないだろうが、少なくとも経験則的に、酒は乳幼児の発育に悪影響が出ることを理解していたと思われる。

美味しい秋ナスの粕漬けだが、アルコールが良くないので妊娠・育児中の嫁には決して食べさせてはいけない、という教訓を歌った和歌だったのではないだろうか。

秋サバに焼きナスも?

余談だが、「秋茄子は嫁に食わすな」は後世になって様々な派生形が生まれており、「秋サバは嫁に食わすな」、「秋カマスは嫁に食わすな」、「五月蕨(ごがつわらび)は嫁に食わすな」などが知られている。

「焼きナスは嫁に食わすな」なども見かけたが、これはもちろん「秋ナス」を「焼きナス」と単に聞き間違えただけであることは言うまでもない。

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