歌舞伎に由来する言葉 語源・意味 一覧

現代の日本でも使われる歌舞伎関連の語句・単語の意味や語源・由来

日本の伝統芸能・歌舞伎(かぶき)に由来する言葉、歌舞伎の用語を語源とする日本語など、現代の日本でも使われる歌舞伎関連の語句・単語の意味や語源・由来を一覧にまとめてみた。

まず、歌舞伎という名称については、「傾く(かたむく)」の古語にあたる「傾く(かぶく)」であり、その連用形が名詞化した「かぶき」が語源となっている。

歌舞伎 市川團十郎 (9代目)

江戸時代、派手な衣装や一風変わった異形を好んだり、常軌を逸脱した行動に走る者は「かぶき者」と呼ばれ、斬新な動きや派手な装いの「かぶき踊り」が生まれた。

「かぶき踊り」は主に女性が踊っていたことから、「歌舞する女」の意味で「歌舞妓」、「歌舞姫」「歌舞妃」などの表記が用いられ、これが今日の「歌舞伎」の語源となっている。

十八番(おはこ)

得意の芸、得意とする物事などを意味する十八番(おはこ/じゅうはちばん)は、一説には、市川家の得意演目「歌舞伎十八番」の台本を桐の箱に入れて保管したことが語源とされる。

歌舞伎十八番(かぶきじゅうはちばん)とは、江戸時代の天保年間(1831-1845)に七代目市川團十郎(当時五代目市川海老蔵)が市川宗家のお家芸として選定した18番の歌舞伎演目。

18番の中で今日でも特に人気が高い演目は、『助六(すけろく)』、『勧進帳(かんじんちょう)』、『暫(しばらく)』の三つ。

このほか、『矢の根』、『外郎売(ういろううり)』、『毛抜(けぬき)』、『鳴神(なるかみ)』、『景清(かげきよ)』などが今日でもしばしば上演される。

助六寿司(すけろくずし)

稲荷寿司と海苔巻きを折り詰めた寿司のことを「助六寿司」というが、これは歌舞伎十八番の演目「助六」における愛人・揚巻(あげまき)の名前に由来している。

稲荷寿司(いなりずし)の「油揚げ」と、巻寿司(まきずし)の「巻(まき)」が、揚巻(あげまき)の名前にちなんだ寿司となっている。

市松模様

チェッカーフラッグのように、二色の正方形(または長方形)を交互に配した模様は「市松模様(いちまつもよう)」と呼ばれる。

これは、江戸時代の歌舞伎役者、初代・佐野川市松がこの模様の服を愛用していたことに由来している。「市松格子」、「元禄模様」ともいう。ちなみにそれ以前は、「石畳(いしだたみ)」、「霰(あられ)」などと呼ばれていた。

鬼滅の刃 きめつのやいば 竈門炭治郎 かまど たんじろう

集英社「週刊少年ジャンプ」にて2016年から2020年まで連載された少年漫画「鬼滅の刃(きめつのやいば)」では、主人公・竈門炭治郎(かまど たんじろう)の服のデザインに市松模様が取り入れられ注目を集めた。

二枚目・三枚目

「二枚目俳優」などのように、やさ男の美男子(びなんし)・色男・ハンサム、演劇・映画などの美男役などを意味する「二枚目(にまいめ)」。

これは歌舞伎の役柄で、主に恋愛場面を見せる美男の立ち役を意味しており、表の看板の右から2番目に名が書かれたことに由来している。

こっけいな役を演じる道化方 (どうけがた)は、3番目に名前が書かれたことから「三枚目」と呼ばれた。今日でも、演劇・映画などで喜劇系俳優に使われることがある。

ちなみに、一枚目は主役、四枚目以降は次のような配役となっている。

四枚目:中軸:中堅役者・まとめ役

五枚目:敵役:一般的な敵役

六枚目:実敵:憎めない善要素のある敵役

七枚目:実悪:巨悪・ラスボス・全ての悪事の黒幕

八枚目:座長:元締め

黒衣(くろご)

陰で物事を支える縁の下の力持ち的な存在を表す「黒衣(くろご)」または「黒子(くろこ)」は、歌舞伎や人形浄瑠璃に由来する。

歌舞伎では、役者の演技や舞台進行の介添えをする人が着る黒い衣装、またはそれを着た人を意味する。観客からは見えないという設定・約束事のもとに、舞台上に現れる。人形浄瑠璃では人形遣いが着る。

暗闘(だんまり)

「だんまりを決め込む」などのように、黙っていてものを言わないことを「だんまり」というが、これは歌舞伎の演出の一つ「暗闘/暗挑(だんまり)」に由来している。

歌舞伎の登場人物が、暗闇(くらやみ)という設定の中で、互いに探り合いながら死闘を繰り広げたり、物語の鍵となる物品を奪い合ったりする立ち回りをすること。

なあなあ

「なあなあで話をつける」、「なあなあの間柄」などのように、相手と適当に折り合いをつけて、いい加減に済ませることを「なあなあ」というが、これも歌舞伎と関連づけられることがある(真偽不明)。

一説によれば、歌舞伎の演技のひとつで、登場人物の一人がもう一人へ「なあ」と声をかけると、相手も「なあ」と返すことに由来すると説明される。

一体何故これが現代における「なあなあ」の意味に変化したと説明できるのかは不明。参考までに。

世話女房

夫の面倒見がよく、家庭内をうまく切りまわす妻、家事に苦労して所帯じみた妻などを「世話女房(せわにょうぼう)」と呼ぶことがあるが、これも歌舞伎に由来している。

歌舞伎では、貧困な生活の苦しみや悲哀を見せる場面を「世話場(せわば)」といい、この世話場に登場する女房役は「世話女房」と呼ばれた。

ケレン味

「ケレン味の利いた作品」「ケレン味のない文章」など、演劇や映画、書籍などの評論で使われる「ケレン味(外連味)」。

これは、歌舞伎や人形浄瑠璃における演出「外連(けれん)」に由来する。外連は、早替わり・宙乗り・仕掛け物など、見た目本位の奇抜な演出を指している。

「けれん」という言葉の語源自体ははっきりしていないが、「正当ではない、邪道である」といった意味合いで使われていたようだ。現代における「けれん」は「ごまかし。はったり」の意味となる。

黒幕(くろまく)

表面には出ないで、裏から指図をしたり陰謀を企てる影の支配者的な人物を「黒幕」というが、これは、歌舞伎で場面の変わり目に舞台を隠したり、夜を表す背景などに用いられる黒い色の幕が由来とされる。

人形浄瑠璃では、舞台を操る者を隠すために黒幕が用られ、そこから歌舞伎でも、舞台を裏から支配する興行主や金主(スポンサー)などを「黒幕」と呼ぶようになった。

差金(さしがね)

陰で人に指図・入れ知恵などをして人を裏から操ることを意味する「差金(さしがね)」は、歌舞伎の小道具の名前が由来。

歌舞伎では、蝶・鳥・人魂(ひとだま)などが舞う様子を舞台で表現するため、長い黒塗りの竹竿の先につけた針金に吊るして、黒衣がこれを物陰から操作した。

千両役者

芸能やスポーツなどで、技量に優れ、際立った活躍をして周囲を魅了する人を「千両役者(せんりょう やくしゃ)」と呼ぶことがあるが、これは、江戸時代に人気を博した歌舞伎役者の収入に由来している。

文字通り、給金(’給料)が千両を越えた役者に対する呼称であり、最初期(江戸中期)の千両役者としては、初代芳澤あやめ(女形)、二代目市川團十郎らが挙げられる。

どんでん返し

小説や演劇、映画などで、読者や視聴者の予想を大きく裏切る展開や、ストーリーを根底から大きく覆したりするような結末などを「どんでん返し」と表現することがあるが、これも歌舞伎の舞台技法に由来している。

歌舞伎では、背景の大道具を90度後ろへ倒し、別の絵が描かれた底面を垂直に立てることで、一瞬で次の場面に転換させる「強盗返(がんどうがえし)」という技法が用いられていた。

「強盗返」の際、大太鼓が「どんでんどんでん」という音を出して鳴り響く様子が、今日における「どんでん返し」の語源・由来となっている。

大詰(おおづめ)

物事の終局の場面や最後の段階を意味する「大詰め(おおづめ)」は、歌舞伎の演目構成に由来している。

江戸時代の歌舞伎は2部構成が一般的で、1部では時代物、2部では世話物が演じられていた。

1部の最終演目は「大詰(おおづめ)」、2部の最終演目は「大切(おおぎり)」と呼ばれ、この前者が現代における「大詰め」の由来となっている。

大喜利(おおぎり)

日曜日の夕方に放送される国民的演芸バラエティ番組『笑点』のコーナーでおなじみの大喜利(おおぎり)。寄席でとりの終わったあとに行われる謎かけやとんちなどの演芸を意味する。

その語源は、「大詰め」と同じく上述の歌舞伎の演目構成に由来している。

「大詰め」は1部の最終演目だったが、「大切り」は2部の最終演目。

歌舞伎の用語である「大切り」を寄席(よせ)の演目として使うにあたり、「客も喜び、演者も利を得る」という趣意から縁起をかついで「大喜利」という当て字が採用されたとの説が有力。

幕切れ(まくぎれ)

物事の終わり・終結を意味する「幕切れ(まくぎれ)」は、江戸歌舞伎においてそれぞれの場の終わりに引き幕が閉まることに由来している。「幕引き」とも。

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