月の光 ベルガマスク組曲第3曲

クロード・ドビュッシー(Claude Achille Debussy/1862-1918)

『ベルガマスク組曲 Suite Bergamasque』は、フランスの作曲家ドビュッシーの1890年頃の作品。

「前奏曲(Prelude)」、「メヌエット(Menuet)」、「月の光(Clair de Lune) 」、「パスピエ(Passepied) 」の4曲より構成され、中でも第3曲「月の光」は最も有名な曲の一つ。

この「月の光」は、イギリスの音楽家レオポルド・ストコフスキー(Leopold Stokowski/1882-1977)によりオーケストラ用に編曲された。

また、ディズニー映画「ファンタジア」、オーシャンズ11(オーシャンズイレブン/Ocean's Eleven)などの映画にも使用されている。

ベルガマスクの意味とは?イタリア留学中に着想?

ドビュッシーは、1884年にフランスの奨学金付留学制度「ローマ賞(Prix de Rome)」の第一等(Premier Grand Prix)を受賞し、政府から援助を得てイタリアのローマへ1885年から2年間留学している。

ローマからパリへ戻った数年後に作曲された「ベルガマスク組曲」だが、この「ベルガマスク」とはイタリア留学時に訪れたイタリア北部のベルガモ地方に関係するとも言われている。ただ、曲の内容自体には特にイタリア的なものは表現されていないようだ。

「ベルガマスク」のタイトルの由来については、ドビュッシーが好んでモチーフにしていたフランスの詩人ヴェルレーヌ(Paul Verlaine/1844-1896)の詩集「艶なる宴(Fetes galantes)」の一篇「月の光(Clair de Lune)」に見られる「bergamasque」から用いられたとする説もある。

だが、「bergamasque」という言葉自体がイタリア北部のベルガモ地方に由来している言葉であり、やはりベルガモ地方とのつながりを完全に無視することはできないようだ。

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イタリア北部で16世紀に生まれた即興演劇コメディア・デラルテ

それでは、ベルガマスクとは一体何を指している言葉なのだろうか?これを考えるに当たっては、16世紀中頃にイタリア北部で生まれ、主に16世紀頃から18世紀頃にかけてヨーロッパで流行した即興演劇コメディア・デラルテ(Commedia dell'arte)の内容に少し触れる必要がある。

コメディア・デラルテは、固定的なキャラクターを用いて、恋愛や不倫、時事問題やスキャンダルなどのお決まりのシチュエーションを即興的に演じて物語を展開していく。

女性が演劇をすることがあり得なかった時代に女優を用いていたことも特徴的で、今日の(職業的)劇団のルーツとされている。

キャラクターの種類は時代や設定によって若干変化があったようだが、アルレッキーノ、ブリゲッラ、コロンビーナ、イル・カピターノ、パンタローネなどが定番だったようだ。

最も有名なアルレッキーノ(Arlecchino)は、英語ではハーレクイン(Harlequin)と呼ばれ、軽業師、道化師、ペテン師の役どころで、猫の面を被り、赤・緑・青のまだら模様の衣装を着ていた。

アルレッキーノ(ハーレクイン)の奇抜な衣装は、今日のピエロの衣装の起源とされている。また、イギリスのシェイクスピアやフランスのモリエールなどの劇作家にも大きな影響を与えた(写真:コロンビーナと踊るアレルッキーノ/出典:Wikipedia)。

仮面の下に隠された道化師の悲しみ

ドビュッシー
ベルガマスク組曲 実用版 ドビュッシー

ヴェルレーヌの詩「月の光(Clair de Lune)」の中に登場する「bergamasques」は、アレルッキーノ(ハーレクイン)そのものではないにせよ、イタリア北部で生まれたコメディア・デラルテ及びアレルッキーノから派生して生まれた踊りや衣装が関係していると考えられる。

ベルガモ地方はイタリア北部。そのイタリア北部で生まれたコメディア・デラルテ及びアレルッキーノは、今日のピエロの起源。明るく滑稽に振舞うピエロは、実は心の奥では深い悲しみを湛えている。

ヴェルレーヌの詩の中では、仮面の下に悲しみを隠して道化を演じる悲しいピエロ的な振る舞いの象徴として「bergamasques」が用いられている。顔で笑って心で泣いている「悲しいピエロ」。それが「ベルガマスク」のもう一つの意味ではないだろうか?

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ヴェルレーヌ「月の光」・日本語訳(意訳)

Votre ame est un paysage choisi
Que vont charmant masques et bergamasques
Jouant du luth et dansant et quasi
Tristes sous leurs deguisements fantasques.

貴方の心模様は
素敵な仮面とベルガモのダンスの様だ
リュートを奏で 踊りながら
気まぐれに心の底の悲しみを隠す

Tout en chantant sur le mode mineur
L'amour vainqueur et la vie opportune,
Ils n'ont pas l'air de croire a leur bonheur
Et leur chanson se mele au clair de lune,

物悲しい短調に乗せて歌うは
勝ち誇った愛と時宜を得た人生
幸せを信じられないその歌は
清らかな月の光に溶けていく

Au calme clair de lune triste et beau,
Qui fait rever les oiseaux dans les arbres
Et sangloter d'extase les jets d'eau,
Les grands jets d'eau sveltes parmi les marbres.

穏やかな月の光は
悲しくそして美しく
枝に止まる鳥を夢にいざなう
湧き出でる恍惚に溢れ
大理石に光をそそぐ

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