遥かなティペラリー
It's a Long Way to Tipperary

宮沢賢治も歌った?!映画「Uボート」でも使われたイギリス流行歌

『遥かなティペラリー』は、1912年にイギリスで作曲された流行歌。第一次世界大戦中にイギリス軍将兵らによって愛唱された。作曲:ジャック・ジャッジ、ハリー・ウィリアムズ。

原曲名は『It's a Long Way to Tipperary』(イッツ・ア・ロング・ウェイ・トゥ・ティペラリー)。『ティペラリー・ソング(Tipperary Song)』とも題される。

ティペラリー州のダーグ湖

写真:ティペラリー州のダーグ湖(Lough Derg)出典:Wikipedia

「ティペラリー」とは、アイルランド南部、マンスター地方のティペラリー州 (County Tipperary) のこと。作曲者ジャック・ジャッジの祖父母がティペラリー出身だそうだ。

1912年当時の歌詞では、ティペラリー出身の若者が故郷に残してきた彼女を想う内容となっている。

1981年公開の映画「U・ボート」で印象的に用いられたほか、日本では宮沢賢治が日本語の歌詞で替え歌を書いている。

【YouTube】It's a Long Way To Tipperary

歌詞の意味(1912年オリジナル)

1.
Up to mighty London
Came an Irishman one day.
As the streets are paved with gold
Sure, everyone was gay,

強大なロンドンに
ある日アイルランド人がやって来た
大通りは金で舗装され
それは誰もが陽気だった

ある日、大ロンドンに

Singing songs of Piccadilly,
Strand and Leicester Square,
Till Paddy got excited,
Then he shouted to them there:

歌い上げるは ピカデリー
ストランド そしてレスター広場
アイルランド人は興奮して
大声で叫び始めた

<コーラス>

It's a long way to Tipperary,
It's a long way to go.
It's a long way to Tipperary
To the sweetest girl I know!

遥かなティペラリー
遥か彼方
遥かなティペラリー
そこには愛しのあの子が

Goodbye, Piccadilly,
Farewell, Leicester Square!
It's a long long way to Tipperary,
But my heart's right there.

さよなら ピカデリー
さよなら レスター広場!
遥か遠いティペラリー
けれど僕の心は今もそこに

2.
Paddy wrote a letter
To his Irish Molly-O
Saying, "Should you not receive it,
Write and let me know!"

彼は手紙を書いた
アイルランドにいる彼女モリーに
受け取れないなら
手紙で僕に知らせて

"If I make mistakes in spelling,
Molly, dear," said he,
"Remember, it's the pen that's bad,
Don't lay the blame on me!

もし僕がスペルミスしても
愛しのモリー 彼は言った
覚えておいて それはペンが悪いんだ
僕のせいにしないでおくれ

<コーラス>

3.
Molly wrote a neat reply
To Irish Paddy-O,
Saying Mike Maloney
Wants to marry me, and so

モリーはきちんと返事を書いた
アイルランドの彼に宛てて
マイク・マロニーも言ってるの
あたしと結婚したいって

Leave the Strand and Piccadilly
Or you'll be to blame,
For love has fairly drove me silly:
Hoping you're the same!

ストランドやピカデリーを出なさいよ
できないのなら あなたが悪いのよ
あたしは恋にのぼせてしまったの
あなたも同じ気持ちでいてほしい

<コーラス>

映画「Uボート」とティペラリーソング

1981年公開の映画「U・ボート/Das Boot/The Boat」では、ドイツの潜水艦・Uボートの艦内で『遥かなティペラリー(ティペラリー・ソング)』のレコードが流され、その後も劇中で同曲が印象的に用いられている。

U・ボート ディレクターズ・カット

自国のプロパガンダ放送に嫌気がさしたUボートの艦長が気まぐれに流したものだったが、乗組員にも受け入れられ、重要なシーンで合唱するまでに至る。

ジャケット写真:U・ボート ディレクターズ・カット [DVD]

宮沢賢治とチッペラリー

日本の詩人・宮沢 賢治(1896-1933)は、童話「フランドン農学校の豚」の中で、『遥かなティペラリー』を意味する「チッペラリー」という曲名が登場する。

ヨークシャイアは仕方なくのそのそ畜舎を出たけれど胸は悲しさでいっぱいで、歩けば裂けるやうだった。助手はのんきにうしろから、チッペラリーの口笛を吹いてゆっくりやって来る。鞭もぶらぶらふってゐる。全体何がチッペラリーだ。こんなにわたしは悲しいのにと豚は度々口をまげる。

<引用:宮沢 賢治の童話「フランドン農学校の豚」より>

日本では、1917年(大正6年)に浅草オペラ「女軍出征」で使用され、チッペラリーとして有名になっていたようだ。

さらに宮沢 賢治はオペレッタ「飢餓陣営」の中で、『遥かなティペラリー』のメロディに日本語の歌詞をつけた『私は五聯隊の古参の軍曹』という替え歌を書いている。

一、
私は五聯隊の古参の軍曹
六月の九日に演習から帰り
班中を整理して眠りました
そのおしまひのあたりで夢を見ました。

二、
大将の勲章を部下が食ふなんて
割合に適格なことでもありませんが
まる二日食事を取らなかったので
恐らくはこの変てこな夢をみたのです。

<引用:宮沢 賢治『私は五聯隊の古参の軍曹』

当時は同盟関係にあった日本とイギリス。イギリスの流行歌が日本へ伝わるのも比較的早かったようだ。

大正時代の日本で、宮沢賢治もこの『チッペラリー』を口ずさんでいたのだろうか?

バトルフィールドVにも登場

2018年発売のゲームソフト「バトルフィールドV(BattlefieldV/BFV/BF5)」では、シングルプレイのキャンペーン「旗なき戦い(Under No Flag)」において、ゲーム中に『遥かなティペラリー』が流れ、エピソードの主人公ビリーが同曲を口ずさむ。

ジャケット写真: Battlefield V (バトルフィールドV) PS4版

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