パロディ曲『森のくまさん』を作詞者が提訴?
作詞者に無断で歌詞を追加しCDリリース
アメリカ民謡・童謡『森のくまさん』に独自の歌詞とメロディを付け加えたパロディ曲(下ジャケット写真)に対して、日本語歌詞の作詞者(訳詞者)である馬場祥弘さんが2017年1月18日、パーマ大佐とレコード会社のユニバーサルミュージック(東京)に対し、CDやDVDの販売中止を求める通知書を送った。
パーマ大佐によるパロディ版『森のくまさん』では、歌詞の途中でオリジナルのストーリーとメロディを差し挟む形の改変・アレンジが加えられており、歌詞(訳詞)の著作権を持つ馬場祥弘さんの許諾が必要となるが、その改変部分について馬場さんの許諾がないまま、CDが発売されてしまったという。
JASRACも手が出せない同一性保持権
歌詞(訳詞)の著作権については、馬場さんはJASRACに「全信託」を行っているが、著作権法上、たとえ信託契約でもJASRACへ移らない権利があり、その移らない権利の一つである「同一性保持権」に基づいて、無承諾の改変に対する馬場さん本人による法的措置が検討されているということになろう。
JASRACの規約については詳しくないが、どうやらJASRACが権利を持っている部分(改変以外のオリジナルの部分)に対しては、使用申請に対して拒否する事は原則できないらしく、替え歌やパロディ曲などの「同一性保持権」の侵害問題については直接タッチしないようだ。
テレビ報道によれば、レコード会社のユニバーサルミュージック(東京)は、JASRACから使用許諾を受けたとの解説がなされていたので、おそらく改変以外のオリジナルの部分に対する許諾を、曲全体に対する使用許諾と受け取ってしまった可能性が考えられる。
事前交渉も決裂していた?
発売前にも馬場さん本人に対してユニバーサルミュージック側からパロディ曲制作に関する事前交渉があったようだが、その交渉は決裂してしまったという。金銭的な折り合いがつかなかったのか、自身の訳詞によるオリジナル作品の健全なポジションを守りたかったのか、真相は不明だ。
馬場さん側としては、2週間以内にユニバーサルミュージック側の対応がみられない場合、損害賠償請求・慰謝料請求や刑事告訴など法的措置を検討しているという。
そもそも、著作権の消滅している外国の民謡を最初に訳詞しただけで莫大な利益を独占できてしまう現状については批判的な意見も多く、今回の訴訟は馬場さんにとって「藪をつついて蛇を出す」、いわゆる「やぶ蛇」状態になってしまうのではないかと(他人事ながら)危惧される。今後の展開に注目したい。
追記:和解が成立
翌週にあっけなく和解が成立。条件の一つとして、アーティスト名の前に、歌詞を追加したことを示す「加詞」という文言を併記することになったようだ。
聞き慣れない「加詞」という表記については、こちらのページ「加詞(歌詞の追加)と著作権 もりくま騒動」で若干補足しているので適宜参照されたい。
森のくまさんの謎 インデックス
- はじめに
- 歌詞の様々な解釈
- 作詞は馬場祥弘氏
- 森くま英語版のユーモア
- ちょっぴり大人な替え歌
- 小さなイモムシ
- 1919年の楽譜
- 腹をすかせた哀れな男の歌
- 魚肉からミートボールへ
- すべての謎は解けた?
- パロディ曲『森のくまさん』を作詞者が提訴?
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