愛の喜び クライスラー

ヴァイオリンとピアノのための小作品 ラフマニノフ版も有名

『愛の喜び Liebesfreud』は、オーストリア出身の音楽家フリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler/1875-1962)によるヴァイオリンとピアノのための小作品。

同じくクライスラーによる作品『愛の悲しみ Liebesleid』と対を成す楽曲であり、さらに『美しきロスマリン』を加えて三部作として扱われることもある。

クライスラーは、ロシアのピアニスト、セルゲイ・ラフマニノフと親交があり、ラフマニノフはクライスラーの『愛の喜び』『愛の悲しみ』の2曲をピアノ独奏用に編曲している。

一般的に、作曲家が愛や女性を題材とした作品を作曲する際、当時の作曲者にとって大切な存在である特定の女性が実在している場合が少なくない。

では、クライスラーの場合はどうだろうか?

筆者の推測では、1901年に知り合い翌年に結婚した妻との出会いが『愛の喜び』誕生に大きく影響しているように思われる(詳細は後述)。

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アメリカ人女性と結婚

クライスラーは1901年(26歳頃)、アメリカからヨーロッパに戻る船の中で、アメリカ人女性のハリエット・リース(Harriet Lies)に出会い、一目惚れしてすぐに婚約までこぎつけた。

ハリエットはブルックリンの裕福な煙草商の娘で離婚歴もあったが、社交的で聡明な彼女はクライスラーの性格や音楽の才能をすぐに理解。二人は翌1902年にニューヨークで結婚式を挙げ、夫婦となった。

写真:訪米中のクライスラー夫妻(出典:The Hoax Museum Blog)

彼女は妻としてだけではなく、演奏家としてのクライスラーを直接支えるマネージャーとしても有能さを発揮。自宅での練習スケジュール管理から、演奏会のギャラ交渉まで、表と裏でクライスラーの音楽活動を支える大きな存在となっていった。

ハリエット・リースと出会った後に『愛の喜び』が作曲されたとすれば、その愛とはハリエットへ向けた情熱であったことは想像に難くない。

ウィキペディア英語版の解説によれば、『愛の喜び』や『愛の悲しみ』は最初に1905年に出版され、その後1911年に別の歌集にまとめられたとされており、時期的にも結婚から数年後と近い。

なお、妻との出会いを念頭に置いた曲と解釈すると、『愛の喜び』と対の楽曲である『愛の悲しみ Liebesleid』の「悲しみ」に違和感が出てくるが、それは妻と出会う前に経験した失恋から着想したものなのかもしれない。

ちなみに、ドイツ語タイトル「Liebesleid」の「leid」は本来「苦しみ」とも解釈できるので、将来の妻との恋愛中に感じていた胸の苦しみとも考えられる。

ドラマ版「のだめカンタービレ」挿入曲

2006年に放送されたドラマ「のだめカンタービレ」第9話では、クライスラー『愛の喜び』が挿入曲として使われていた。

第9話では、のだめの催眠術によって飛行機恐怖症に打ち勝った千秋が登場。のだめのために北海道に行ってカニを土産に持ち帰り、カニを届けにハリセン宅にいるのだめに会いに行くシーンで『愛の喜び』が流れる。

黄金伝説 1万円節約生活 BGM

テレビ朝日系列で1998年から2016年まで放送されていたバラエティ番組「いきなり!黄金伝説。」では、人気コーナー「1ヶ月1万円節約生活」で、クライスラー『愛の喜び』が挿入曲として使われていた。

ちなみに、同番組で使われていたクラシック音楽としては、モーツァルト『ソナチネ第1番(6つのウィーンソナチネ)』も有名。

最初は偽名で発表された?

ウィキペディア英語版の解説によれば、『愛の喜び』、『愛の悲しみ』、そして『美しきロスマリン』の3作品は初演当時、クライスラー作曲の作品としてではなく、オーストリアの音楽家ヨーゼフ・ランナー(Joseph Lanner/1801-1843)の作品(の編曲)として発表されていた。

ヨーゼフ・ランナーといえば、ヨハン・シュトラウス一家に先立ってウィンナ・ワルツの様式を確立させた「ワルツの始祖」とも言うべき名作曲家。

一体なぜ、クライスラーほどの高い技術を持ったヴァイオリニストがこれほどの「偽作」を行わなければならなかったのか?

その意味・理由・動機については、諸説をこちらのページ「クライスラーの偽作 意味・理由は?」でまとめている。

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